人間の孤独と愛のさすらいを描いたヴィンセント・ギャロ監督・主演「ブラウン・バニー」は映画への愛とインディペンデント魂に貫かれている

ヴィンセント・ギャロの長編処女作「バッファロー’66」(98年)の誕生は衝撃的でした。まさに頭を金づちで殴られたようなインパクトがあり、新しい才能の誕生を鮮やかに印象づけました。日本では、現在休館中の渋谷のシネクイントのオープニング作品として公開され、ミニシアターの映画ファンだけでなく、ファッションや音楽に敏感な若者にも受け入れられ、ロングランヒットを記録しました。

生まれ故郷の米バッファローを舞台に、刑務所を出所ばかりの男と行きずりの少女の奇妙な関係を、ギャロ独自のエキセントリックな表現で描いた異色のラブストーリー。ギャロが原案・脚本・監督・音楽に加えて主演し、「アダムス・ファミリー」の子役から大人の女性に成長しつつあったクリスティーナ・リッチがヒロインを務め、絶妙な掛け合いを見せました。物語や映像表現だけでなく音楽も素晴らしく斬新で、ギャロの美学が貫かれた傑作です。サウンドトラックも当時すり切れるほど聞いたのを思い出します。

そんなギャロが5年後に完成させた「ブラウン・バニー」(03年)は、さらにギャロのパーソナルな要素が強くなった作品で、静かな悲しみと、内に秘めた激しい愛の情熱に満ちた映像詩で、「バッファロー’66」を遥かに超える衝撃を世界中に与えました。コンペティション部門に出品されたカンヌ国際映画祭では賛否両論を巻き起こしました。

特に、ヒロインを演じたクロエ・セヴィニーとのラストのラブシーンは賞賛とバッシングの嵐となり、観る者の欲望に訴えかけ、観る者の心さえも丸裸にするような感覚に陥ります。要するに好き嫌いが別れる作品と言えるでしょう。「バッファロー’66」好きの信者でさえ賛否がわかれたと思います。

深い悲しみに満ち、激しい愛を求める非常にピュアな作品で、切り取られる映像感覚や音楽はどこか懐かしささえ覚えるノスタルジックなロードムービーでもあります。ギャロにしか撮れない唯一無二の映画であり、映画への愛、インディペンデント魂に貫かれている作品とも言えるでしょう。

ミケランジェロ・アントニオーニ監督やヴィム・ヴェンダース監督作品にも通じるような映画で、人間の孤独と愛のさすらいを噛みしめて欲しい作品です。

 

ブラウン・バニー プレミアムBOX (完全限定生産) [DVD]

 

2003年/アメリカ/90分/ヨーロピアン・ビスタ/SRD
提供:キネティック、レントラックジャパン、トライエム、パイオニアLDC、電通、葵プロモーション
配給:キネティック

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