韓国映画界の2大巨匠の作品に感嘆、映画監督の視点を通して新しい世界を観ることが出来る喜びに浸る

前回の投稿から1カ月以上間が空いてしまったが、この間、良質な映画を何本も観ることが出来たので今回はその中から2本紹介したい。

 

「バーニング 劇場版」は、韓国のイ・チャンドン監督が新たな領域に踏み出した秀逸な作品。8年ぶりとなる作品で、「ペパーミント・キャンディー」「シークレット・サンシャイン」「ポエトリー アグネスの詩」とはまた少し違うミステリードラマとなっていた。村上春樹氏の短編小説「納屋を焼く」が原作で、設定はそのままに物語を大胆にアレンジして描いたという。主人公の青年の田舎にある実家の軒先で、幼なじみの女性と、その女性がアフリカ旅行で知り合ったという謎の男が、夕暮れ時に語り合うシーンが素晴らしい。日が落ちるとともに徐々に暗くなっていくが、照明はつけず、3人が語り合う時間の経過と関係性をじっくりと映し出していく。チャンドン監督の世界を見つめる視点がここに表現されているように感じた。これまで以上にミステリアスで、衝撃的なラストにしばらく席から動けなくなるだろう。「人生とは何か?」を見つめ直してる方におススメです。2019年2月1日公開です。

 

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続いては、同じく韓国のホン・サンス監督「草の葉」と「川沿いのホテル」。恐らく低予算であるはずなのだが、そんな諸事情を飛び越えて、ものともせず、いやそれを逆手に取って楽しむかのように、モノクロ映像でまるで一筆書きのようでありながら、恐ろしく映画的な表現の映画となっている。「草の葉」の主な舞台は喫茶店で、そこでお茶する4組のそれぞれの会話をじっくりと切り取り、各人物を浮き彫りにしていき、やがて人生が交わるかのように見つめた先品。サンス監督のミューズ、キム・ミニが素晴らしい。
「川沿いのホテル」の主な舞台はそのタイトル通り、川沿いのあるホテルだ。自分の死期を悟ったような詩人の父親と、息子兄弟2人がそのホテルで待ち合わせて久しぶりに会う。一方、失恋した女性とその親友がそのホテルに傷心を癒しにきている。この2組の何気ない会話を交互に映し出しながら、親子の関係や女性の心情を見つめる。モノクロの映像の中で観ていると、やがてこのホテルが現世ではないようにも見えてくるから不思議だ。サンス監督の人間を見つめる視線が秀逸だ。日々の生活に疲れ、ちょっと休憩したい人におススメです。

 

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ジャッキー・チェンらスターを育て上げた映画プロデューサー、レイモンド・チョウ氏が逝去

ジャッキー・チェンら香港の多くの映画スターを育て上げた映画プロデューサー、レイモンド・チョウ(鄒文懐)さんが11月2日に亡くなった。91歳だった。

 

ジャッキーのクンフー映画、アクション映画を見て育った私としては、ある意味この方によって思春期の人間性を形成されたと言っても過言ではないので、チョウさんの訃報を聞いて非常にショックだ。

 

香港でスターになっていくジャッキーの傍らには常にチョウさんが寄り添っていた。この方がいなければブルース・リーもホイ3兄弟もサモ・ハンも世に出ていなかったと考えると、その功績は非常に大きい。

 

チョウさんは、1927年に香港で生まれ、英字新聞の記者を経て、50年に映画会社ショウ・ブラザーズの宣伝部に転職したという。そして、70年にゴールデン・ハーベスト社を設立し、数々のスターを育て、香港映画の黄金時代を築いた。ジャッキーを「キャノンボール」で国際舞台に送り出し、香港のみならず世界的なスターに育て上げた。

 

ジャッキーの傍らで写真に写るチョウさんの顔はいつも温和な表情であったが、香港映画界でスターを育て、ヒット作を連発したということはとんでもないやり手映画プロデューサー、経営者であったことが想像できる。

 

ジャッキーの「ヤング・マスター」「プロテクター」「プロジェクトA」「ドラゴンロード」「サンダーアーム」「ポリス・ストーリー 香港国際警察」、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」「ドラゴン怒りの鉄拳」、ホイ3兄弟の「Mr.Boo!」シリーズ、「霊幻道士」シリーズ、ピーター・チャン監督「ラヴソング」、ツイ・ハーク監督「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズ、メイベル・チャン監督「宋家の三姉妹」など、チョウさんが手掛けたヒット作、傑作、秀作をあげたらきりがない。

 

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その作品やスターは世界中で見られ、多くの映画人にも多大な影響を与えている。そういう私も映画とは何かを教えられた一人だ。チョウさんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

デヴィッド・リンチ監督「ツイン・ピークス リミテッド・イベント・シリーズ」に酔いしれ抜け出せない!

8月の夏休みを利用して、ようやくデヴィッド・リンチ監督の「ツイン・ピークス リミテッド・イベント・シリーズ」(テレビ放送時の邦題は『ツイン・ピークス The Return』)をゲオでDVDを借りて一気観した。なんとも夢の中のような幸福な時間を久しぶりに過ごすことができた。全18エピソードのドラマであるが、これは壮大な「映画」である。

 

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1990年代に日本でも社会現象を巻き起こした大ヒットドラマ「ツイン・ピークス」の25年後を描くもの。学生時代に「ツイン・ピークス」の世界に陶酔してから25年も経ったのかと感慨を覚えずにはいられない。そして再びリンチ監督の頭の中を覗き見ることができたわけだが、その作品世界は期待と想像を遥かに上回るものであった。

 

あの独特な音楽が流れ、冒頭のツイン・ピークスの山と滝が落ちる風景が映し出された途端に、一気にあの倒錯した異世界に引き込まれてしまう。主人公のクーパーFBI捜査官を演じるカイル・マクラクランが出てくるなり鳥肌がたち、しかも今回は一人3役を演じているではないか。

 

また、もう一人の主人公と言える殺害されたローラ・パーマーを演じたシェリル・リーが、いい感じで歳を重ねた姿での登場には目頭が熱くなったほど。おお、ローラだ! その他にもドラマシリーズのレギュラメンバーがいい感じに老いた姿で登場する度にニヤけてしまった。

 

シーズン1、シーズン2で未回収のままだった謎はこういうことだったのかとか、その謎がさらに訳がわからなくなっていったり、今回はリンチが全話監督したということもあって、やりたい放題な印象なのだが、それがまたたまらなく面白いのである。中でもエピソード8は圧巻だった。

 

70歳を超えてもなおこの創造力。しかもその創造力は唯一無二のリンチワールド。駄目な人は全くダメで付いていけないと思うが、一度ハマったら抜け出せなくなるほど陶酔してしまう。いったいどうしてなのか? グロいし、キモいし、わけがわからないにもかかわらず、引き込まれてしまう魅力的で悪夢的な世界。人間が本来持っているダークな側面をリンチは確信犯的に映像化しているから刺激を受けるのだろう。

 

ローラの絶叫が頭から離れない。

間違いなく今年観た「映画」のNo.1作品だ!

 

鈴木敏夫プロデューサー著書「ジブリの仲間たち」を読んで、映画プロデューサーの役割を改めて痛感する

数々の傑作を生み出してきたアニメ制作会社「スタジオジブリ」の代表取締役プロデューサー、鈴木敏夫さんの著書「ジブリの仲間たち」(新潮新書)を読んだ。改めて鈴木さんのプロデューサーとしての才能を思い知らされ、大変勉強になった。

 

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天才、宮崎駿監督のアニメ映画を作るために立ち上げられたこの会社は、もう一人の天才、宮﨑監督の師匠でありライバルでもある高畑勲監督という二人の天才を擁し、名作アニメ映画を世に送り出してきた。

 

鈴木プロデューサーがいかにしてこの二人の天才と対峙しながら、作り続けるだけでなく、興行的に大ヒット作を生み続けてきたのかが語られており、鈴木プロデューサーもまた天才であることがわかる。

 

宮﨑監督の『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』、高畑監督の『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』など、スタジオジブリはなぜ予想を超えるヒット作や名作を生みだし続けることができたのか。

 

作品の力はもちろんだが、そこにはプロデューサーである鈴木さんと、その仲間たちの力がかけ算された結果だった。鈴木さんが「宣伝の本質は仲間を増やすこと」とい述べているように、監督と長い時間激論を交わし、監督が何か考え、どんな作品を作ろうとしているのかを掴み、それが時代とどう重なるのかを発見し、それを世に伝えるために、大きな企業や映画会社を巻き込み、駆けずりまわって、大ヒットに導いていく経験談や秘話は、想像を超えるものだった。ここまでやればそりゃあ大ヒットするわと思えてしまうほど。

 

天才であり人間としてクセものの二人は、鈴木プロデューサーと時にぶつかり合いながらも刺激を受け、鼓舞されながら作品を高めていったようだ。

 

宮﨑監督は昨年引退を撤回し、新作「君たちはどう生きるか」にとりかかっている。そんな中、高畑監督は今年4月5日に惜しくも逝去した。

 

高畑監督の死を経て、鈴木プロデューサーと宮﨑監督は、またどんな作品を世に送り出してくれるのか、いまから完成が楽しみでならない。

三池節炸裂のグロテスクな「無限の住人」を堪能するも、違和感と物足りなさを感じずにはいられない。

遅ればせながら木村拓哉主演の映画「無限の住人」を観た。昨年4月29日に公開され、興行成績は最終的にヒットの目安である10億円に届かず、惨敗と言ってよい結果だった。SMAPの独立問題、解散問題でキムタクが裏切り者扱いされたことも多少影響したことだろう。

 

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そんな結果も出ていたので、作品への期待のハードルが下がっていたこともあるが、私は思ったよりも面白かった。というかそれは俳優キムタクへの評価ではなく、やはり三池崇史監督作品としての面白さである。Vシネマ時代に感じた奇形な面白さが久々に感じられたのである。

 

原作は沙村広明のよる人気時代劇コミック。伝説の人斬り・万次は、賞金稼ぎの手によって妹・町の命を奪われてしまう。生きる意味を見失った万次だったが、謎の老婆によって無理やり、死にたくても死ねない「無限の体」にされてしまったという設定。

 

原作コミックは未読であるが、冒頭から斬りまくる殺陣シーンが展開し、血を吹き、腕は切断され、グロテスクで凄惨なシーンが連続する。さすが三池監督!と唸らされた。人斬り役のキムタクも画になっているし、殺陣も見事にこなしているではないか。これはもしや、興行的にはふるわなかったが、実は秀作ではないかと期待したほど。

 

しかし、その後はドラマ展開としていささか単調となってしまい、なぜヒットしなかったのかが見えてきた。まず、女性層には血しぶきや切断される手足は見ていてキツかったであろう。キムタクファンも傷だらけの顔と、手が切断されてくっつくなどするキムタクの姿に戸惑ったに違いない。敵の剣客集団・逸刀流の統首・天津役として、人気若手俳優の福士蒼太が投入されているが、メイクのせいなのかなんだか顔がのっぺりとしているし、凄腕剣士としてはどうにも魅力(殺気)が感じられない。

 

また、福士への復讐の動機となるヒロイン・凛役の杉咲花は、時代背景に馴染まない可愛さで、泣き叫び、違和感を覚えてしまう。凛が殺された万次の妹に似ているというのが肝なのだが、早々に斬り殺されてもおかしくない無謀な行動を繰り返すので興ざめしてしまう。

 

天津の仲間として、北村一輝、満島真之介、市川海老蔵、戸田恵梨香、市原隼人が演じる刺客が現れ、万次と対決するのだが、万次は死なないとわかっているだけに、その対決に緊張感はない。それぞれにドラマは帯びているのだが、残念ながら単調で活きてこないのだ。唯一、紅一点の戸田が美しい殺気を放っていた。

 

ただし、撮影、照明、美術、殺陣などは目を見張るほど素晴らしい。照明の明暗や日差しの差し方、リアルな美術装置は映画的なリアリティと美しさを堪能できる。「十三人の刺客」(2010年)で新しい時代劇の到来を告げた三池時代劇の進化形と言えなくもないが、もっといい作品にできたのではないかと思わずにはいられない、惜しい作品である。

6月の映画興行が約1年ぶりに前年比プラスになるも、気になる絶対的王者の興行傾向

映画業界ニュースによれば、6月の映画興行が約1年ぶりに前年比プラスとなったようだという。映画興行は堅調というイメージを持っていた方からすると驚かれるかもしれないが、昨年8月からずっと前年割れが続いていたのだ。

 

この6月は、今年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール賞を受賞した是枝裕和監督「万引き家族」に加え、長澤まさみと山田孝之が共演したラブコメディ「50回目のファーストキス」、池井戸潤原作を初めて映画化した長瀬智也主演「空飛ぶタイヤ」、大ヒットヒーロー映画の続編「デッドプール2」などが興収10億円を突破。6月29日より公開された「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」も貢献したようだ。今年の夏は大ヒットシリーズの最新作の公開が控えていることから夏休み興行に期待が高まる。

 

しかしその一方で、日本映画界の絶対的王者、映画興行の牽引者である東宝配給作品が、今年は少し元気がないように見える。「のみとり侍」「恋は雨上がりのように」「OVER DRIVE」「羊と鋼の森」といった作品が最終興収で10億円に届きそうにない(7月上旬時点)。東宝配給作品といえば、コケても最低限10億円超えは当たり前だったが、最近はそのハードルが下がってきているように思う。

 

また、同社の6月の映画営業部門の興行成績は前年比75.8%で、1月から6月の累計興収は92.3%となっている。

 

この傾向は、いわゆる邦画と洋画の年間興収シェアの揺り戻しによるものなのだろうか。昨年から洋画の大ヒットシリーズなどの新作の興行が好調で、今年の夏休みも「デッドプール2」「ハン・ソロ」に続き、「ジュラシック・ワールド 炎の王国」「ミッション:インポッシブル フォールアウト」「インクレディブル・ファミリー」などが公開される。

 

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とはいえ、東宝配給の定番アニメ「名探偵コナン ゼロの執行人」は4月13日公開以来ロングランとなっており、累計興収は85億円を突破し、シリーズ最高興収記録を更新し続けている。

 

いわゆる、少女コミック原作を実写映画化した「キラキラ映画」が他社も制作して同じような作品が乱立し、東宝としても新しいヒットの鉱脈を見つけるべく、先陣を切って多様な作品に取り組みだしたようにも見える。前述の配給作品は数字的には苦戦しているが、東宝の戦略による種まきの時期なのかもしれない。

マリオ・ルチアーノ著「ゴッドファーザーの血」、伝説のマフィア“ラッキー・ルチアーノ”の末裔が語る激動の半生が面白い!

フランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザー」が好きな者として、書店で目にし、反射的に手に取ってしまった書籍「ゴッドファーザーの血」。著者はマリオ・ルチアーノという男。

 

ゴッドファーザーの血

 

ルチアーノ、そうマフィア映画好きの方ならすでにお気づきと思うが、このマリオさん、伝説のマフィア“ラッキー・ルチアーノ”の末裔だというではないか。そんな末裔が現在日本にいるという。

 

このキャッチコピーだけでも読むに値するのだが、マフィアとしてヤクザとして生きたマリオさんの激動の半生が綴られている。五代目山口組組長、大物右翼、元総理大臣、有名俳優、マフィアの5代ファミリー、さらにはアラファト元PLO議長といった名前が並び、コッポラ監督も出てくるではないか。

 

世界各地を流転し、幾多の出会いと別れ、金と裏切りといったまさにマフィア映画のような人生を歩んできた著者が、日本で最後に「本当の愛」を見つけたという落ちである。

 

ここまで書いてしまって大丈夫なのかと心配になるような裏の世界の男たちが登場し、実際に何度も危ない目にもあっているが、読んでいると、まさにルチアーノの血がこのような人生を歩ませているとしか思えない。

 

しかし、どんなに派手に生きてきても、やはり裏の世界の男たちの末路は普通ではないことも語られている。マリオさん自身もファミリーのために金を稼ぎ、命を張ってきても裏切られ、家族や金といったもの全てを失っている。

 

孤独を味わっている人生の後半に出会った女性との出会いが生き方を変え、この書を書かせたのだろう。人生の裏の教科書としてあっという間に読んでしまった。

ミシェル・アザナヴィシウス監督「グッバイ、ゴダール!」、革命に傾倒していくゴダールが描かれている貴重な意欲作

7月13日より「グッバイ、ゴダール!」が公開される。この作品は、「アーティスト」(2011年)でアカデミー賞の5部門を獲得したミシェル・アザナヴィシウス監督の最新作で、第70回カンヌ国際映画祭に正式出品された。

 

「ゴダール」とはもちろん、1960年代フランスのヌーヴェルヴァーグの中心的存在で、「勝手にしやがれ」や「軽蔑」、「気狂いピエロ」などの作品で「映画を変えた」と言われた映画監督ジャン=リュック・ゴダールのことである。

 

原作は、女優、作家であり、ゴダールの2番目の妻でもあったアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝的小説「それからの彼女」。19歳の哲学科の学生だったアンヌが、ゴダールと出会って恋に落ち、「中国女」に主演して結婚。世界中から注目を集めていた天才監督と過ごした青春の日々が、フランスの五月革命が勃発し、揺れるパリという激動の舞台の中で描かれる。

 

中国女 Blu-ray

 

まず、この生きる伝説とも言えるゴダールを描こうと決意したアザナヴィシウス監督が凄い。一歩間違えれば映画ファンからのブーイングの嵐は目に見えている。しかし、アザナヴィシウス監督は敢えてこの天才を描くことに挑み、見事に映画として昇華している。

 

さらにゴダールを演じたルイ・ガレルに拍手を送りたい。ゴダールという天才の孤独や偏屈さとともにどこか憎めない愛嬌もある面をユーモアと敬意を込めて演じていることが伝わってくる。ちなみに彼の父親は映画監督のフィリップ・ガレルだ。

 

そして、ステイシー・マーティンがとても魅力的にア愛らしく、セクシーにゴダールの新たなるミューズ、アンヌを演じている。ラース・フォン・トリアー監督「ニンフォマニアック」で映画デビューし、ファッショニスタとしても注目されている。

 

アンヌの原作やゴダールの作品・言動から、60年代のフレンチカルチャーの匂いを感じることができる上に、なぜゴダールが商業映画との決別を宣言したのか、その経緯を伺う知ることができるのも貴重だ。

 

初代ミューズであるアンナ・カリーナや、ブリジット・バルドー、ジーン・セバーグ、ジャン=ポール・ベルモントといったスター俳優を起用し、アメリカ映画を意識した新たな映画作りで世界の映画史にその名を刻んだゴダール。その創作姿勢の最初の過渡期を知ると、その後のゴダールの作品に見方が変わってくる。

 

クリストファー・ノーラン監督の頭の中を読み解く分析本「クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論」は必読の書だ!

「ダークナイト」や「インセプション」などの作品でハリウッドを牽引する映画作家クリストファー・ノーラン作品の分析本「クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論」を読破した。

 

クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論

 

同書は、ノーラン監督に対する日本で初めての分析本となるが、映画監督を読み解く普通の映画本ではない。著者のトッド・マガウアンは、哲学や精神分析の側面からもノーラン監督と作品を考察する。

 

ノーラン監督作品のテーマである「フィクション」や「嘘と真実」を通して、「嘘」がどのように中心的な役割を果たし、我々観客は何に翻弄され、欺かれていくのかを作品を通して読み解いていく。

 

確かに、ノーラン監督作品の構造に改めて着目すると、虚構(嘘、仮想、夢、偽装など)を作り込み、仕掛けを施していることがわかる。そして、その映像と物語の展開の巧みさが、哲学や精神分析理論からも読み解くことができるという視点には納得させられる。

 

学生時代にノーラン監督の出世作「メメント」を初めて観た時の衝撃は今も忘れない。映画というものをこんな風に再構築できるのか、こんな風に観る者を欺きながらも映画的な興奮を与えることができるのかと、目から鱗であった。

 

さらに「ダークナイト」はハリウッド映画の新たな幕開けをつげるような作品であった。コミック=アニメのスーパーヒーローの世界を現実的な世界の中で描き、それまでのヒーロー映画の概念を一変させたといったも過言ではないだろう。

 

バットマンが車の屋根に降りた時の重み(ヘコみ)方ひとつとってもリアルであり、対するジョーカーの狂気には映画的な興奮をせずにはいられないアンチヒーローの登場だった。演じるヒース・レジャーの演技は永遠に映画史に刻み込まれるであろう。

 

続く「インセプション」「ダークナイト ライジング」「インターステラー」で更なる進化を遂げ、常に映画的な表現の可能性を押し広げようとしている。

 

そういったノーラン作品の文脈の中で改めて象徴的であり、最も重要な作品と言えるのが、「プレステージ」であろう。ライバル同士のマジシャンが繰り広げる騙し合いを描いており、虚構(嘘、仮想、夢、偽装など)が中心的なテーマであるノーランの思想や考え、映画との関係を知る上でも非常に興味深い作品である。

 

ノーラン監督本人がどこまで哲学や精神分析を念頭において映画作りをしているのかはまだ定かではないが、こういった側面から全作品を見直してみると、新たな楽しみ方ができる。

日本映画の新しい幕開けを期待させる白石和彌監督の「狐狼の血」、役所や松坂らが熱き想いに応える熱演を披露

しばらく投稿が滞っておりました。やっぱり人生いろいろあるもんですね。

とはいえこの間も映画は観ておりました。白石和彌監督の「狐狼の血」は、久しぶりに日本映画を観ていて体内のアドレナリンが騒ぎだし、頭をガツンとかち割られたような衝撃を得ました。東映の警察ものや任侠映画の系譜を受け継ぎつつ、新世代のアウトローを描き出した見応え充分の映画です。

 

まず、暴力団との癒着が噂されるベテラン刑事を演じた役所広司が素晴らしい。いま日本映画界でこの役をこんな風に色っぽく演じられる男優は役所の他にいないでしょう。そしてまた、生意気な新人刑事を松坂桃李が初々しさとセクシーさを融合させて、役所と対極をなす相棒を見事に演じ切っています。

 

このベテランと新人という二人の対比と葛藤が軸としてあり、ここの様々なクセのあるキャラクターが絡んできます。ヤクザを演じる江口洋介、竹野内豊の面構えが絵になるし、最近活躍が著しい音尾琢真が出色の存在感を放って物語を牽引しています。訳ありのクラブのママを演じた真木よう子の色気と凄味も流石です。

 

「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」で高い評価を得た白石監督が、柚月裕子の同名小説を原作に、ピエール瀧、石橋蓮司、田口トモロヲといった個性派、演技派も配して、警察とヤクザのヤバい話を、リアルに、グロテスクなバイオレンスで見事に描き切っています。白石監督も意識している韓国のヤク映画、バイオレンス映画に負けない映画で、腹を括って撮っている姿勢が伝わってきました。

 

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せっかくヤクザ映画やバイオレンス映画を制作しても、動員を左右する女性層やファミリー層を気にして、生温いものしか作れなかった近年の日本映画界に楔を打ったという意味でもこの映画は重要度の高い作品とも言えます。