オドレイ・トトゥやクレームブリュレが大人気に! ミニシアター作品の象徴とも言えるジャン=ピエール・ジュネ監督「アメリ」

日本におけるミニシアターブームの象徴的な一本、フランス映画の「アメリ」。今は閉館してなくなってしまった渋谷のミニシアター、シネマライズで2001年11月17日より公開され、連日劇場の前には長蛇の列ができるロングランの大ヒットを記録しました。

テレビのニュースでも取り上げられるほど社会現象化し、ミニシアター文化の確立に貢献。ファッションや食といったカルチャーにも多大な影響を及ぼしました。その後の女性のライフスタイルの憧れになったほか、劇中に出てくるスイーツ、クレームブリュレやそれを割るスプーンも大人気となり、未だにクレームブリュレ=「アメリ」と紐づけられるといっても過言ではないのではないでしょうか。

それまでのミニシアター作品のヒット作でも、1年近くロングラン上映して、多くても5億円を稼げば大ヒットと言われていたのが、単館(ミニシアター)から拡大し、最終的に全国で興収16億円を稼ぎ出しました。映画の買付額は定かではありませんが、企画書段階で買い付けていたらしく、相当低い金額であったことから、もの凄い利益率だったことが推測でき、ビデオなどの2次使用からの収益を多く、噂では配給会社の自社ビル「アメリビル」が銀座に建ったとも言われています。

作品はというと、神経質な両親の元で育ったアメリは、空想の中で遊ぶことと、こっそりと悪戯をすることが好きな女の子に。そんなアメリは22歳になって、モンマルトルのカフェで働きはじめるのですが、青年ニノに出会って恋心を抱きます。でも、どうしたらいいか分からず悪戯を仕掛けてしまうというもの。

「デリカテッセン」「ロスト・チルドレン」のジュネ&キャロのジャン=ピエール・ジュネ単独の初長編作品で、それまでのダークな作品世界とは打って変わって、オシャレで不思議な世界が展開。アメリを演じたオドレイ・トトゥはこの一本で日本でも大人気となりました。

そんな「アメリ」のプレスシートは大切に保管していたのですが、今読み返してもオシャレで可愛らしい、配給・宣伝会社のセンスがうかがえるものとなっています。

映画が一本当たればビルが建つくらい、インディペンデントの映画の配給ビジネスに夢が持てた時代の象徴でもありますね。アメリだけでなくちょっと変わった人たちがたくさん出てくるお話ですが、女性の心理と空想世界が融合した、映画でしか味わえない、ファンタジックな時間が楽しめる作品です。

 

アメリ プレミアム・エディション[アメリ缶] [DVD]

 

2001年度作品/フランス映画/121分/ドルビーデジタルDTS
提供:ニューセレクト、テレビ東京、博報堂
配給:アルバトロス・フィルム

「スコセッシ流監督術」を読めば、巧みに計算し尽くされたマーティン・スコセッシ監督作品をより理解することが出来る必読の書

前回に続き映画本について紹介したいと思います。「名監督の技を盗む! スコセッシ流監督術」(発行:ボーンデジタル)は、監督が観客を映画の世界に引き込む、画作りの魔法を解き明かすもの。監督を志す人はもちろん、映画ファンにとってもその監督の作品をより深く理解することが出来る必読書となっています。

 

名監督の技を盗む! スコセッシ流監督術

 

本書のマーティン・スコセッシは現代アメリカ映画の最高の監督の一人です。スコセッシ監督作品を観たことがあるでしょうか? このブログを読んでくれている方はもちろん観ていると思いますが、スコセッシ監督は映画の歴史も熟知した映画愛のある博士であり、制作においては極めて「映画的な技法」を駆使して物語を語ることが出来る数少ない監督の一人でもあります。

また、俳優の良さを引き出しながらカメラワークやビジュアルで視覚的に物語を語ることが出来るところでしょう。スコセッシ監督特有の流れるようなカメラワークと編集、ナレーションで2時間だろうが3時間だろうが時間を感じさせない語り口は圧巻ですが、実は各シーンが巧みに計算し尽くされたショットから成り立っていることに気づく人はかなりのスコセッシファンか映画ファンだけでしょう。

例えセリフがなくてもカメラの動き一つ、ビジュアル的な記号だけで、物語を語り、登場人物の心情を表現するテクニックは簡単にマネできるものではなく、膨大な映画的知識があってこそそのテクニックが効果的に生かせるのでしょう。

シンプルな肩越しショットの使用やフリーズフレーム、フラッシュ、スローモーションなどはスコセッシ監督の定番技法ですが、ここぞというシーンでは凝りに凝ったスタイルと大胆な技法、独創的なショットを駆使するのです。そうしたシーンの積み重ねからの強弱が観ている観客を唸らせているのです。

そういったポイントが、「タクシードライバー」「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「レイジング・ブル」「ディパーデット」といった作品を例に、著者のクリストファー・ケンワーシーによって丁寧に細かく解説されています。本書を片手に各作品のシーンを観直すとより映画を楽しむことができるものとなっています。

スコセッシ監督にとっては呼吸をするようなことなのかもしれませんが、今の日本でこうした映画的な表現が出来る監督は、ベテランでも極めて少ないのが現状です。映画は総合芸術だと言われますが、スコセッシ監督は巨匠となりながらも毎回映画的なチャレンジをしているのには頭が下がります。

若手監督とっては本書を読むと、映画的表現とは何か、映画の演出とは何かに気づかせてくれると思います。

ムック本「懐かしき俺たちのアメリカン・ニューシネマ『青春を駆け抜けた名作が今甦る』」に詰まった映画の素晴らしさ

今日はある映画ブックを紹介したいと思います。芸文社から6月に発売された「懐かしき俺たちのアメリカン・ニューシネマ『青春を駆け抜けた名作が今甦る』」です。これは素晴らしいムックで、名作が詰まっています。

 

懐かしき 俺たちのアメリカン・ニューシネマ 「青春を駆け抜けた名作が今蘇る」 (GEIBUN MOOKS)

 

いわゆる1970年代の「アメリカン・ニューシネマ」は、私の映画人生に多大な影響を与えた作品が勢揃いしています。しかし、このムックの巻頭にある説明文によると、そもそも「アメリカン・ニューシネマ」という定義は存在しないというではないですか。

1960年代後半から70年代にかけて起こったハリウッドの新しいムーブメント。それまでのハリウッド映画のスタイルとは異なる自由に作られた、時代や当時の社会を反映した作品。物語のテーマだけでなく、伝統を破壊した制作スタイルも支持されたものでした。

でも、それはある特定の作家たちが明確な意図で行ったものではなく、その時代性が偶然に産み出したものだったというではありませんか。

「ニューシネマ」という言葉は、67年2月号「Time」に掲載された無署名の記事「映画における自由がもたらす衝撃」の使われたもので、この号で大きく扱われたアーサー・ペン監督の「俺たちに明日はない」(67年)のことを指すものだったというのが定説とのこと。

さらに「アメリカン・ニューシネマ」という言葉は、映画雑誌「キネマ旬報」の記事で使用されたのが最初で、日本独自のものとのこと。勉強不足でしたが、ということは、やはり「アメリカン・ニューシネマ」は傑作「俺たちに明日はない」がムーブメントのはじまりだと言えるということでしょうか。

しかし、「アメリカン・ニューシネマ」に定義などなく、定義できない、新しい、自由な当時の映画を「アメリカン・ニューシネマ」とするのならば、それはそれでまた映画好きどもでひと晩もふた晩も議論しながら飲み明かせることでしょう。

このムックで紹介されている「アメリカン・ニューシネマ」作品についても、それぞれ取り上げていきたいと思っています。いつ観ても、何度観ても心が震える素晴らしい作品に溢れています。

ryusei wada制作の映像をYouTubeにアップ! テーマは「懐かしさ」です。

このブログサイトをスタートさせるのと同時に、過去にテスト撮影・編集した動画をYouTubeにアップしました。息抜きにでも観ていただければと思います。

3本アップしました。1本は「a omori」というタイトルです。私の父の故郷である青森の祖父母の家の近くの「道」をテーマにしたものです。数十年経ってもなぜかその家の周辺は私の幼少期の記憶のままです。そこにたどり着くまでのイメージをまとめてみました。

2本目の「sky001」は、美しい雲と夕方の太陽が交差した空を撮影したものです。当時住んでいたマンションの屋上から撮影しました。このサイトのヘッダーでも観ることが出来ます。

そして3本目の「nostalgia」は、電車の車窓からの流れ行く風景をセピア調にフィルムっぽくした映像です。「a omori」にも使用しているものです。

3本ともに共通しているのはいつかどこかの「懐かしさ」でしょうか。テスト的な映像ではありますが、こんな感性を大事にしていけたらと思います。

YouTube

人間の孤独と愛のさすらいを描いたヴィンセント・ギャロ監督・主演「ブラウン・バニー」は映画への愛とインディペンデント魂に貫かれている

ヴィンセント・ギャロの長編処女作「バッファロー’66」(98年)の誕生は衝撃的でした。まさに頭を金づちで殴られたようなインパクトがあり、新しい才能の誕生を鮮やかに印象づけました。日本では、現在休館中の渋谷のシネクイントのオープニング作品として公開され、ミニシアターの映画ファンだけでなく、ファッションや音楽に敏感な若者にも受け入れられ、ロングランヒットを記録しました。

生まれ故郷の米バッファローを舞台に、刑務所を出所ばかりの男と行きずりの少女の奇妙な関係を、ギャロ独自のエキセントリックな表現で描いた異色のラブストーリー。ギャロが原案・脚本・監督・音楽に加えて主演し、「アダムス・ファミリー」の子役から大人の女性に成長しつつあったクリスティーナ・リッチがヒロインを務め、絶妙な掛け合いを見せました。物語や映像表現だけでなく音楽も素晴らしく斬新で、ギャロの美学が貫かれた傑作です。サウンドトラックも当時すり切れるほど聞いたのを思い出します。

そんなギャロが5年後に完成させた「ブラウン・バニー」(03年)は、さらにギャロのパーソナルな要素が強くなった作品で、静かな悲しみと、内に秘めた激しい愛の情熱に満ちた映像詩で、「バッファロー’66」を遥かに超える衝撃を世界中に与えました。コンペティション部門に出品されたカンヌ国際映画祭では賛否両論を巻き起こしました。

特に、ヒロインを演じたクロエ・セヴィニーとのラストのラブシーンは賞賛とバッシングの嵐となり、観る者の欲望に訴えかけ、観る者の心さえも丸裸にするような感覚に陥ります。要するに好き嫌いが別れる作品と言えるでしょう。「バッファロー’66」好きの信者でさえ賛否がわかれたと思います。

深い悲しみに満ち、激しい愛を求める非常にピュアな作品で、切り取られる映像感覚や音楽はどこか懐かしささえ覚えるノスタルジックなロードムービーでもあります。ギャロにしか撮れない唯一無二の映画であり、映画への愛、インディペンデント魂に貫かれている作品とも言えるでしょう。

ミケランジェロ・アントニオーニ監督やヴィム・ヴェンダース監督作品にも通じるような映画で、人間の孤独と愛のさすらいを噛みしめて欲しい作品です。

 

ブラウン・バニー プレミアムBOX (完全限定生産) [DVD]

 

2003年/アメリカ/90分/ヨーロピアン・ビスタ/SRD
提供:キネティック、レントラックジャパン、トライエム、パイオニアLDC、電通、葵プロモーション
配給:キネティック

スティーブン・ソダーバーグ監督が「ローガン・ラッキー」で映画復帰、「トラフィック」「エリン・ブロコビッチ」「チェ」のような作品をまた観たい!

スティーブン・ソダーバーグ監督の映画復帰作「ローガン・ラッキー」が、11月に日本公開されることが決定しました。26歳の時に撮った「セックスと嘘とビデオテープ」(89年)で衝撃的なデビューを飾って以来、多くの話題作を手掛けてきたソダーバーグ監督。サスペンス「サイド・エフェクト」(13年)をもって劇場映画から引退を宣言していましたが、ソダーバーグ監督の劇場映画を待っていたファンは多いはず。

ハリウッドのヒットメーカーでありながら、ソダーバーグ監督が高い評価を受けるのは、豪華ハリウッドスター競演の「オーシャンズ11」シリーズのような娯楽作から、「トラフィック」「エリン・ブロコビッチ」(ともに00年)といった社会派ドラマ、サスペンスなど硬軟手掛けられる多才さだろう。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞や米アカデミー賞監督賞受賞などがそれを物語っています。

私が中でも好きな作品は、2部作の「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳 別れの手紙」(08年)です。ピーター・アンドリュース名義で撮影監督としての手腕も発揮しているソダーバーグ監督のカメラは、まるでチェ・ゲバラやフィデル・カストロたちと革命の最前線にいるかのような錯覚を覚えるほどのリアルさがあり、ドキュメンタリータッチのような語り口に作品に引き込まれてしまいます。チェを演じたベニチオ・デル・トロの熱演も素晴らしかったですね。

私が今手にしているのは「ガールフレンド・エクスペリエンス」(09年)です。当時の現役ナンバー1ポルノ女優サーシャ・グレイを主演に迎えて製作した恋愛ドラマ。意外に思いもしたが、撮影当時の秋に起きたリーマン・ショックによる経済破綻や大統領選にも触れた興味深い内容になっています。

まるでポルノ女優の日常生活に入り込んだような視点で描かれており、覗き見的な要素もありながら、一人の女性の感情に寄り添っていく演出はソダーバーグ節は健在。ファッション、レストラン、アート、SEX、金融、オバマ大統領など、リアルなニューヨークライフが体感でき、ソダーバーグ監督が社会や人間、世界をどのように見ているのかが、本作でも伝わってくると思います。

 

ガールフレンド・エクスペリエンス/バブル [DVD]

 

2009年/アメリカ/シネスコ/ドルビーデジタル/77分
配給:東北新社

視覚的な刺激が得られる押井守監督の「アヴァロン」を観て、自分の現実(フィールド)を疑い、確かめろ!

今年は、士郎正宗さんの人気コミックを押井守監督が映画化したSFアニメの傑作「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」(1995年)がハリウッドで実写映画化され、「ゴースト・イン・ザシェル」というタイトルで公開されました。

改めて押井監督の「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」が世界に与えた影響の強さを知らしめる出来事だったと思います。もちろん、私も押井作品に影響を受けた一人であり、ファンの一人です。初めて「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」を観た時は、そのアニメ表現のリアルさと先進性、95年に時代を先取りしたネット世界の情報と物語の融合、そして哲学的な押井ワールドに圧倒され、何回観たのかもう数えてないほど繰り返し観ました。

私がいま手にしているのは、押井監督の実写作品「アヴァロン」(00年)のパンフレットです。これは堪らず購入しました。この作品は衝撃的に面白かったですね。押井監督がアニメを実写化(『アヴァロン』にアニメ版はないが)するとこんな映像世界になるんだと。それまで味わったことのない感覚を得られました。

パンフレットは縦36.5センチ、横26センチのワイド版で、見事なビジュアルインパクトのある一冊です。

「ここが私の現実(フィールド)だ」

「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」から5年、脚本の伊藤和典さんとともに練り上げられた設定は、仮想戦闘という世界、繰り返される現実と虚構の近未来。まったく新しい異世界が、重量感溢れる街並みやセピアカラーの映像によって描き出されます。観客をいい意味で裏切るような演出で視覚的な刺激を与えてくれます。

仮想戦闘の世界で殺された時の人物の消える表現、爆発した瞬間にカメラが横へ回り込むと物体が平面になっているという発想。私たちが普段見ているもの、既成概念を覆すような数々の表現に驚かされました。

ポーランド、日本、アメリカの精鋭スタッフが押井監督のもとに結集し、ポーランドで2カ月に及ぶオールロケを敢行。迫力あるゲーム内の戦闘シーンは、日本だけでは実現しなかったでしょう。

アニメ的な表現と実写とのデジタル融合。00年に押井監督はすでに挑戦していたのですね。象徴的に使われる押井監督の愛犬もご愛嬌です。

果たして我々は今、現実世界に生きているのか? 現実世界と思い込んでいる世界が実は仮想世界なのではないか? そんな常識が次第に曖昧になり、主人公は戦闘が繰り返される「仮想世界」の中で生きることを選んでいるように見えます。現実と非現実の境界線、繰り返される戦闘、擬体と肉体、意識と存在といったものが押井作品では繰り返し描かれます。

 

アヴァロン Avalon メモリアルボックス [DVD]

 

押井監督が世界をどう捉えて見ているのか、考えているのか。自分のフィールドが果たしてどこなのか、問わずにはいられなくなります。川井憲次さんの音楽も相変わらず素晴らしく、押井ワールドと見事に融合しています。

実写版「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」は、荒木飛呂彦氏の原作世界と三池崇史監督ワールドが化学反応を起こした怪作だ!

何かと話題の映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」を観てきました。夏休み作品として8月4日から公開されたのですが、週末興行ランキングで初登場5位。土日2日間で動員11万7000人、興収1億6600万円という期待を下回るスタートを切りました。

原作は、シリーズ累計発行部数1億部を超える荒木飛呂彦氏の大ヒットコミックです。山﨑賢人主演、三池崇史監督で実写映画化という、製作発表時からそのキャスティングなどで、原作ファンからは賛否両論を巻き起こしていました。ふたを開けてみたら公開劇場はガラガラとの評判がSNS上でも吹き荒れていたので、どれだけ原作ファンの期待を裏切る作品になっているのかと確かめにいったのですが、これが意外に良く出来ていたという感想です。

私は世代的に初期の第一部「ファントムブラッド」は読んでいるのですが、今回実写化された第4部の原作はほぼ未読です。しかし、所々は読んだり、情報として原作の世界観や展開については掴んでいるので、そのレベルでの原作の認識で観ても製作陣はマジに実写化に取り組んだことが伝わってきました。

ただ、そのために全体的にダークな作品になっていることは避けられず、うちの娘の「思っていたよりもグロテスクだった」という感想がここまでの興行結果を象徴しているのではないでしょうか。

原作ファンの期待に応えようとすればするほどファミリー向け映画にはならないわけで、かといって幅広い層に受けようとひよると原作ファンから袋だたきにあうというとても難しい素材なわけです。私は充分楽しめたのですが、原作を読んでいない人にとっては、作品世界を理解するのにちょっと時間がかかるかもしれません。

一方で、同じ夏休み作品で大ヒットしている「銀魂」の興行と比べると分かりやすかもしれません。こちらは「週刊少年ジャンプ」連載の空知英秋氏原作による大ヒットコミックを、小栗旬主演、福田雄一監督で実写映画化したもの。7月14日より公開され、週末興行ランキングで初登場2位。土日2日間で動員39万2789人、興収5億4103万2900円を記録する大ヒットスタートを切り、8月13日現在で累計興収は31億円を突破しました。

こちらは原作を読んでいなくても楽しめるファミリー向けの作品になっていたと思います。原作の世界観と福田監督ワールドが見事に融合し、キャスト陣もハマっていて、テンポの良い展開とくだらないギャグで劇場内は笑いが定期的に沸き起きていました。客層を見回しても家族連れが多く観られました。ただ、この作品がいわゆる「映画」かと言われるとちょっと疑問符が付くくらい、新時代の「映画」なのだという捉え方です。

「ジョジョ」は私からするといい意味で三池ワールドが炸裂したぶっ飛んだ映画で、観ていてニヤけてしまうシーンが何度もありました。山田孝之さんと新田真剣佑さんの怪演も見所の一つですね。

 

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両作品とも洋画メジャーのワーナー・ブラザース映画の作品(『ジョジョ』は東宝共同配給)で、日本のアニメを実写化して、世界にも発信していこうとするローカル・プロダクション作品です。ワーナーとしても「ジョジョ」は予想を下回る興行になっていると思いますが、なんとか第二章を製作して欲しいものです。
※興行数字はいずれも興行通信社発表のものを参照。

岩井俊二監督の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」はいつ観ても新鮮な感動を与えてくれる傑作、新しくアニメ映画化された作品に期待

アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」が、8月18日から公開されるということで、20数年ぶりに岩井俊二監督のオリジナル作品「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を観ました。

オリジナル作品は、1993年に放送されて、95年に劇場公開もされた名作テレビドラマです。その新鮮で瑞々しい映像表現が好評を博し、岩井監督の「Undo」とともに劇場公開され、元はテレビドラマでありながら日本映画監督協会新人賞を受賞する快挙を成し遂げて、岩井監督の名を一躍世間に知らしめまた作品です。

その作品が20数年の時を経て、「モテキ」の監督・大根仁による脚本、「魔法少女まどか☆マギカ」の新房昭之の総監督でアニメ映画化されたということで、久しぶりに岩井監督の作品を観直したのです。20数年ぶりということでだいぶ細部は記憶が薄れていたこともあって、改めて初めて見たような感覚で観ることができました。

しかし、観ていくうちに記憶は甦ってきて、映画を勉強し始めていた頃、岩井俊二作品に影響を受けた若き日の思い出もこみ上げてきました。やはりいい作品はいつの時代に観てもいいですね。小学生の最後の夏休み、少年の好きな人への淡く切ない思いが映像から伝わってきます。

今はもう岩井監督に影響を受けた世代が真似をしたりして演出のスタンダードになっているかもしれませんが、93年当時としては、岩井監督のある種斬新なカメラワークや映像美、子供たちのリアルな演出、物語展開の面白さなどがとても新鮮に映りました。誰もが持っていた子供の頃の純真な心が、岩井俊二マジックによって思い出が再現されたようでした。

 

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ヒロインを演じた奥菜恵のかわいらしさと美しさは今観ても輝いています。主人公の少年を演じた山崎裕太のピュアな演技も素晴らしいですね。果たしこの名作ドラマがどんな風にアニメ化されたのか。歳をとっても世界は少年の頃のように見えるのか? 楽しみです。

 

アメリカン・ドリームを成し遂げたシルベスター・スタローンの「ロッキー」は、生きる勇気を与えてくれる必見シリーズだ

人生の壁に打ち当たったり、苦しいことがあったりすると決まって頭をよぎる映画の一本が、「ロッキー」です。これ以上の悪いことはない、落ちるところまで落ちた、後は這い上がるだけだ。それを証明するためには最後までリングの上に立っていること。自分の存在を確かめるため、そして愛する人のためにも。

1976年のこの作品は、無名だったシルベスター・スタローンを一躍大スターにし、アメリカン・ドリームを成し遂げた主人公の姿とも重なって、世界中の人々の共感を得て大ヒットしました。当時まだ赤ん坊の私はもちろんリアルタイムに劇場では観ていませんが、物心がつく頃にも繰り返しテレビでパロディが演じられていたのを覚えています。

そして、テレビの映画枠で初鑑賞。恐らく何度目かの再放送だと思うのですが、子供ながらに手に汗握りながらロッキーの勇姿に涙しました。うだつの上がらないチンピラボクサーが、ある女性との出会いによって覚醒し、ラッキーなチャンスをつかんで、愛を証明するためにも、自分の存在を証明するためにも、周囲の協力を得ながら自分の限界に挑戦します。

もはや勝つことが目的ではなく、人生を諦めずに最後までリングに立っていること。それが証明できれば、人生をやり直せると気づくのです。

ポルノ俳優のバイトもしていたという噂もある売れない無名のスタローンが、あるボクシングの試合に感化されて、3日3晩で脚本を書き上げたと言われています。脚本を買い取るのはまだわかりますが、そんな無名の俳優を主役に起用する決断をした製作陣に脱帽です。物語はもちろん、映画製作そのものがアメリカン・ドリームを成し遂げるためのものだったのかもしれません。

監督のるジョン・G・アビルドセンは、今年6月16日(現地時間)、すい臓がんのため米ロサンゼルスで他界しました。81歳でした。訃報を受け、スタローンがインスタグラムに投稿したアビルドセン監督へのコメントは必読です。

「ロッキー」シリーズはこれまでに6作製作されました。15年には新たな物語「クリード チャンプを継ぐ男」も製作されている名作シリーズとなっています。個人的には、映画に目覚めた頃、思春期の時に観た「ロッキー4 炎の友情」(86年)は何度観て涙し、身体を動かしたことかわかりません。

今手元には完結編「ロッキー・ザ・ファイナル」(06年)のプレスシートがあります。シリーズのすべてが凝縮されたような一冊です。世代交代、変わらぬ友情と愛、思い出、新たなる挑戦、ネバー・ギブアップ…時代時代に合わせたシリーズの名シーンが甦ってきます。

スタローンは一俳優にとどまらず、監督・脚本も手掛けてその才能を発揮し、「ランボー」シリーズ、「エクスペンダブルズ」シリーズなど、数々の名作・傑作を生み出し続けています。

未見の方はいないと思いますが、もしまだ観ていない方がいるならば、男女問わず是非観て欲しいシリーズです。諦めず挑戦し続ければ必ず道は開ける、そんな風に人生を豊にしてくれる一本になること間違いなしです。あのメインテーマが頭に流れてきました。

 

ロッキー ブルーレイコレクション(6枚組) [Blu-ray]

 

「ロッキー・ザ・ファイナル」
2006年/アメリカ/1時間43分/ビスタサイズ/SR・SRD/DTS
配給:20世紀フォックス映画