マリオ・ルチアーノ著「ゴッドファーザーの血」、伝説のマフィア“ラッキー・ルチアーノ”の末裔が語る激動の半生が面白い!

フランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザー」が好きな者として、書店で目にし、反射的に手に取ってしまった書籍「ゴッドファーザーの血」。著者はマリオ・ルチアーノという男。

 

ゴッドファーザーの血

 

ルチアーノ、そうマフィア映画好きの方ならすでにお気づきと思うが、このマリオさん、伝説のマフィア“ラッキー・ルチアーノ”の末裔だというではないか。そんな末裔が現在日本にいるという。

 

このキャッチコピーだけでも読むに値するのだが、マフィアとしてヤクザとして生きたマリオさんの激動の半生が綴られている。五代目山口組組長、大物右翼、元総理大臣、有名俳優、マフィアの5代ファミリー、さらにはアラファト元PLO議長といった名前が並び、コッポラ監督も出てくるではないか。

 

世界各地を流転し、幾多の出会いと別れ、金と裏切りといったまさにマフィア映画のような人生を歩んできた著者が、日本で最後に「本当の愛」を見つけたという落ちである。

 

ここまで書いてしまって大丈夫なのかと心配になるような裏の世界の男たちが登場し、実際に何度も危ない目にもあっているが、読んでいると、まさにルチアーノの血がこのような人生を歩ませているとしか思えない。

 

しかし、どんなに派手に生きてきても、やはり裏の世界の男たちの末路は普通ではないことも語られている。マリオさん自身もファミリーのために金を稼ぎ、命を張ってきても裏切られ、家族や金といったもの全てを失っている。

 

孤独を味わっている人生の後半に出会った女性との出会いが生き方を変え、この書を書かせたのだろう。人生の裏の教科書としてあっという間に読んでしまった。

ミシェル・アザナヴィシウス監督「グッバイ、ゴダール!」、革命に傾倒していくゴダールが描かれている貴重な意欲作

7月13日より「グッバイ、ゴダール!」が公開される。この作品は、「アーティスト」(2011年)でアカデミー賞の5部門を獲得したミシェル・アザナヴィシウス監督の最新作で、第70回カンヌ国際映画祭に正式出品された。

 

「ゴダール」とはもちろん、1960年代フランスのヌーヴェルヴァーグの中心的存在で、「勝手にしやがれ」や「軽蔑」、「気狂いピエロ」などの作品で「映画を変えた」と言われた映画監督ジャン=リュック・ゴダールのことである。

 

原作は、女優、作家であり、ゴダールの2番目の妻でもあったアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝的小説「それからの彼女」。19歳の哲学科の学生だったアンヌが、ゴダールと出会って恋に落ち、「中国女」に主演して結婚。世界中から注目を集めていた天才監督と過ごした青春の日々が、フランスの五月革命が勃発し、揺れるパリという激動の舞台の中で描かれる。

 

中国女 Blu-ray

 

まず、この生きる伝説とも言えるゴダールを描こうと決意したアザナヴィシウス監督が凄い。一歩間違えれば映画ファンからのブーイングの嵐は目に見えている。しかし、アザナヴィシウス監督は敢えてこの天才を描くことに挑み、見事に映画として昇華している。

 

さらにゴダールを演じたルイ・ガレルに拍手を送りたい。ゴダールという天才の孤独や偏屈さとともにどこか憎めない愛嬌もある面をユーモアと敬意を込めて演じていることが伝わってくる。ちなみに彼の父親は映画監督のフィリップ・ガレルだ。

 

そして、ステイシー・マーティンがとても魅力的にア愛らしく、セクシーにゴダールの新たなるミューズ、アンヌを演じている。ラース・フォン・トリアー監督「ニンフォマニアック」で映画デビューし、ファッショニスタとしても注目されている。

 

アンヌの原作やゴダールの作品・言動から、60年代のフレンチカルチャーの匂いを感じることができる上に、なぜゴダールが商業映画との決別を宣言したのか、その経緯を伺う知ることができるのも貴重だ。

 

初代ミューズであるアンナ・カリーナや、ブリジット・バルドー、ジーン・セバーグ、ジャン=ポール・ベルモントといったスター俳優を起用し、アメリカ映画を意識した新たな映画作りで世界の映画史にその名を刻んだゴダール。その創作姿勢の最初の過渡期を知ると、その後のゴダールの作品に見方が変わってくる。

 

クリストファー・ノーラン監督の頭の中を読み解く分析本「クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論」は必読の書だ!

「ダークナイト」や「インセプション」などの作品でハリウッドを牽引する映画作家クリストファー・ノーラン作品の分析本「クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論」を読破した。

 

クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論

 

同書は、ノーラン監督に対する日本で初めての分析本となるが、映画監督を読み解く普通の映画本ではない。著者のトッド・マガウアンは、哲学や精神分析の側面からもノーラン監督と作品を考察する。

 

ノーラン監督作品のテーマである「フィクション」や「嘘と真実」を通して、「嘘」がどのように中心的な役割を果たし、我々観客は何に翻弄され、欺かれていくのかを作品を通して読み解いていく。

 

確かに、ノーラン監督作品の構造に改めて着目すると、虚構(嘘、仮想、夢、偽装など)を作り込み、仕掛けを施していることがわかる。そして、その映像と物語の展開の巧みさが、哲学や精神分析理論からも読み解くことができるという視点には納得させられる。

 

学生時代にノーラン監督の出世作「メメント」を初めて観た時の衝撃は今も忘れない。映画というものをこんな風に再構築できるのか、こんな風に観る者を欺きながらも映画的な興奮を与えることができるのかと、目から鱗であった。

 

さらに「ダークナイト」はハリウッド映画の新たな幕開けをつげるような作品であった。コミック=アニメのスーパーヒーローの世界を現実的な世界の中で描き、それまでのヒーロー映画の概念を一変させたといったも過言ではないだろう。

 

バットマンが車の屋根に降りた時の重み(ヘコみ)方ひとつとってもリアルであり、対するジョーカーの狂気には映画的な興奮をせずにはいられないアンチヒーローの登場だった。演じるヒース・レジャーの演技は永遠に映画史に刻み込まれるであろう。

 

続く「インセプション」「ダークナイト ライジング」「インターステラー」で更なる進化を遂げ、常に映画的な表現の可能性を押し広げようとしている。

 

そういったノーラン作品の文脈の中で改めて象徴的であり、最も重要な作品と言えるのが、「プレステージ」であろう。ライバル同士のマジシャンが繰り広げる騙し合いを描いており、虚構(嘘、仮想、夢、偽装など)が中心的なテーマであるノーランの思想や考え、映画との関係を知る上でも非常に興味深い作品である。

 

ノーラン監督本人がどこまで哲学や精神分析を念頭において映画作りをしているのかはまだ定かではないが、こういった側面から全作品を見直してみると、新たな楽しみ方ができる。

日本映画の新しい幕開けを期待させる白石和彌監督の「狐狼の血」、役所や松坂らが熱き想いに応える熱演を披露

しばらく投稿が滞っておりました。やっぱり人生いろいろあるもんですね。

とはいえこの間も映画は観ておりました。白石和彌監督の「狐狼の血」は、久しぶりに日本映画を観ていて体内のアドレナリンが騒ぎだし、頭をガツンとかち割られたような衝撃を得ました。東映の警察ものや任侠映画の系譜を受け継ぎつつ、新世代のアウトローを描き出した見応え充分の映画です。

 

まず、暴力団との癒着が噂されるベテラン刑事を演じた役所広司が素晴らしい。いま日本映画界でこの役をこんな風に色っぽく演じられる男優は役所の他にいないでしょう。そしてまた、生意気な新人刑事を松坂桃李が初々しさとセクシーさを融合させて、役所と対極をなす相棒を見事に演じ切っています。

 

このベテランと新人という二人の対比と葛藤が軸としてあり、ここの様々なクセのあるキャラクターが絡んできます。ヤクザを演じる江口洋介、竹野内豊の面構えが絵になるし、最近活躍が著しい音尾琢真が出色の存在感を放って物語を牽引しています。訳ありのクラブのママを演じた真木よう子の色気と凄味も流石です。

 

「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」で高い評価を得た白石監督が、柚月裕子の同名小説を原作に、ピエール瀧、石橋蓮司、田口トモロヲといった個性派、演技派も配して、警察とヤクザのヤバい話を、リアルに、グロテスクなバイオレンスで見事に描き切っています。白石監督も意識している韓国のヤク映画、バイオレンス映画に負けない映画で、腹を括って撮っている姿勢が伝わってきました。

 

日本で一番悪い奴ら Blu-rayスタンダード・エディション

 

せっかくヤクザ映画やバイオレンス映画を制作しても、動員を左右する女性層やファミリー層を気にして、生温いものしか作れなかった近年の日本映画界に楔を打ったという意味でもこの映画は重要度の高い作品とも言えます。