鈴木敏夫プロデューサー著書「ジブリの仲間たち」を読んで、映画プロデューサーの役割を改めて痛感する

数々の傑作を生み出してきたアニメ制作会社「スタジオジブリ」の代表取締役プロデューサー、鈴木敏夫さんの著書「ジブリの仲間たち」(新潮新書)を読んだ。改めて鈴木さんのプロデューサーとしての才能を思い知らされ、大変勉強になった。

 

ジブリの仲間たち (新潮新書)

 

天才、宮崎駿監督のアニメ映画を作るために立ち上げられたこの会社は、もう一人の天才、宮﨑監督の師匠でありライバルでもある高畑勲監督という二人の天才を擁し、名作アニメ映画を世に送り出してきた。

 

鈴木プロデューサーがいかにしてこの二人の天才と対峙しながら、作り続けるだけでなく、興行的に大ヒット作を生み続けてきたのかが語られており、鈴木プロデューサーもまた天才であることがわかる。

 

宮﨑監督の『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』、高畑監督の『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』など、スタジオジブリはなぜ予想を超えるヒット作や名作を生みだし続けることができたのか。

 

作品の力はもちろんだが、そこにはプロデューサーである鈴木さんと、その仲間たちの力がかけ算された結果だった。鈴木さんが「宣伝の本質は仲間を増やすこと」とい述べているように、監督と長い時間激論を交わし、監督が何か考え、どんな作品を作ろうとしているのかを掴み、それが時代とどう重なるのかを発見し、それを世に伝えるために、大きな企業や映画会社を巻き込み、駆けずりまわって、大ヒットに導いていく経験談や秘話は、想像を超えるものだった。ここまでやればそりゃあ大ヒットするわと思えてしまうほど。

 

天才であり人間としてクセものの二人は、鈴木プロデューサーと時にぶつかり合いながらも刺激を受け、鼓舞されながら作品を高めていったようだ。

 

宮﨑監督は昨年引退を撤回し、新作「君たちはどう生きるか」にとりかかっている。そんな中、高畑監督は今年4月5日に惜しくも逝去した。

 

高畑監督の死を経て、鈴木プロデューサーと宮﨑監督は、またどんな作品を世に送り出してくれるのか、いまから完成が楽しみでならない。

三池節炸裂のグロテスクな「無限の住人」を堪能するも、違和感と物足りなさを感じずにはいられない。

遅ればせながら木村拓哉主演の映画「無限の住人」を観た。昨年4月29日に公開され、興行成績は最終的にヒットの目安である10億円に届かず、惨敗と言ってよい結果だった。SMAPの独立問題、解散問題でキムタクが裏切り者扱いされたことも多少影響したことだろう。

 

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そんな結果も出ていたので、作品への期待のハードルが下がっていたこともあるが、私は思ったよりも面白かった。というかそれは俳優キムタクへの評価ではなく、やはり三池崇史監督作品としての面白さである。Vシネマ時代に感じた奇形な面白さが久々に感じられたのである。

 

原作は沙村広明のよる人気時代劇コミック。伝説の人斬り・万次は、賞金稼ぎの手によって妹・町の命を奪われてしまう。生きる意味を見失った万次だったが、謎の老婆によって無理やり、死にたくても死ねない「無限の体」にされてしまったという設定。

 

原作コミックは未読であるが、冒頭から斬りまくる殺陣シーンが展開し、血を吹き、腕は切断され、グロテスクで凄惨なシーンが連続する。さすが三池監督!と唸らされた。人斬り役のキムタクも画になっているし、殺陣も見事にこなしているではないか。これはもしや、興行的にはふるわなかったが、実は秀作ではないかと期待したほど。

 

しかし、その後はドラマ展開としていささか単調となってしまい、なぜヒットしなかったのかが見えてきた。まず、女性層には血しぶきや切断される手足は見ていてキツかったであろう。キムタクファンも傷だらけの顔と、手が切断されてくっつくなどするキムタクの姿に戸惑ったに違いない。敵の剣客集団・逸刀流の統首・天津役として、人気若手俳優の福士蒼太が投入されているが、メイクのせいなのかなんだか顔がのっぺりとしているし、凄腕剣士としてはどうにも魅力(殺気)が感じられない。

 

また、福士への復讐の動機となるヒロイン・凛役の杉咲花は、時代背景に馴染まない可愛さで、泣き叫び、違和感を覚えてしまう。凛が殺された万次の妹に似ているというのが肝なのだが、早々に斬り殺されてもおかしくない無謀な行動を繰り返すので興ざめしてしまう。

 

天津の仲間として、北村一輝、満島真之介、市川海老蔵、戸田恵梨香、市原隼人が演じる刺客が現れ、万次と対決するのだが、万次は死なないとわかっているだけに、その対決に緊張感はない。それぞれにドラマは帯びているのだが、残念ながら単調で活きてこないのだ。唯一、紅一点の戸田が美しい殺気を放っていた。

 

ただし、撮影、照明、美術、殺陣などは目を見張るほど素晴らしい。照明の明暗や日差しの差し方、リアルな美術装置は映画的なリアリティと美しさを堪能できる。「十三人の刺客」(2010年)で新しい時代劇の到来を告げた三池時代劇の進化形と言えなくもないが、もっといい作品にできたのではないかと思わずにはいられない、惜しい作品である。