名優ハリー・ディーン・スタントンの訃報が飛び込んできました。9月15日、米ロサンゼルスの病院で亡くなったとのことです。享年91歳。ショックです。彼が主演したヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」は大好きな一本です。
砂漠をさまよう男。倒れて口もきかない男にはロサンゼルスに息子がいて、弟に連れ戻されても再び息子とテキサス州の町パリを求めて旅立つのですが、そこには思いがけないにがい再会が待っていて、その町を求める理由が明らかになっていきます……。
ロビー・ミュラーの流麗なカメラ、ライ・クーダーの哀愁の旋律、ロード・ムービーの作家ベンダースの傑作ですが、スタントンが醸し出す孤独や哀愁がこの映画をいっそう孤高の傑作に高めていました。砂漠の真ん中で、乾涸びたような眼差しでさまよう男。人生の目標を見失ったかのようなその表情は、物語が進むにつれて、最愛の妻を失った喪失感からきていることが次第にわかってきます。
マジックミラー越しに妻と会話するクライマックスのシーンは、映画史に残る名シーンと言っても過言ではないでしょう。この映画で私はスタントンを明確に認識しました。
しかし、スタントンは、アレックス・コックス監督の「レポマン」(84年)はもちろん、リドリー・スコット監督の「エイリアン」(79年)、マーク・ライデル監督の「ローズ」(79年)、ジョン・カーペンター監督の「ニューヨーク1997」(81年)、フランシス・フォード・コッポラ監督の「ワン・フロム・ザ・ハート」(82年)、マーティン・スコセッシ監督の「最後の誘惑」(88年)、デビッド・リンチ監督の「ワイルド・アット・ハート」(90年)、ニック・カサベテス監督の「シーズ・ソー・ラブリー」(97年)、ショーン・ペン監督の「プレッジ」(01年)など、私の好きな映画に数多く出演していたのです。
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主役でなくても、どんな作品でもその個性で存在感を発揮し、忘れられない名演を残しています。これだけの監督たちに起用され、愛されたスタントンは唯一無二の役者だったことを証明しています。奇しくも今年7月には「パリ、テキサス」の脚本家で俳優のサム・シェパードが亡くなった(73歳)ばかり。また一人素敵な映画俳優を失ってしまいました。ご冥福をお祈り申し上げます。