「MASTER マスター」「密偵」が連続公開! 韓国映画のスターの魅力と新旧監督の確かな演出力が堪能できる2作品

韓国映画の「MASTER マスター」が11月10日より、と「密偵」が11月11日より続けて日本で公開されます。「MASTER マスター」は、イ・ビョンホンとカン・ドンウォン、キム・ウビンが共演したノンストップ・クライムアクション・エンターテインメント。「密偵」は、ソン・ガンホ、コン・ユ、イ・ビョンホンが共演したサスペンス巨編です。

2作品とも韓国映画の新たな底力を感じさせる作品。実話をもとに韓国犯罪史上最大の金融投資詐欺事件の全貌を描いた「MASTER マスター」は、大スターのビョンホンが極悪非常な犯罪者をカリスマ性たっぷりに演じて新たな魅力を発揮。そこにカン・ドンウォン、キム・ウビンというスターが激突し、迫力のアクションと巧妙な心理戦を展開。現代社会が抱える闇にも切り込んだストーリーで観る者を惹き付ける娯楽作になっていて、長編3作目のチョ・ウィソク監督が、海外ロケを交えた壮大なスケール感で観客を飽きさせません。韓国で観客動員715万人を超える大ヒットを記録しました。

日本統治下の1920年代を背景に、韓国映画史上に残る究極の秘密諜報描いた「密偵」は昨年、韓国で観客動員750万人を超える大ヒットを記録。第89回アカデミー賞外国語映画賞韓国代表にも選ばれました。ソン・ガンホが朝鮮人の日本警察部を演じ、見事な日本語を披露。義烈団を率いるリーダーにはコン・ユ、そして義烈団の団長にイ・ビョンホンが特別出演し、圧倒的な存在感を放っています。ソン・ガンホとイ・ビョンホンが劇中で対峙するシーンには痺れました。また、日本の俳優、鶴見辰吾さんが日本警察の重要な役で出演しており、韓国俳優陣に負けない存在感を放っているのも見所です。「悪魔を見た」(10年)で世界中を震撼させたキム・ウジン監督の確かな映画演出には下を巻きます。

 

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ハリウッド映画にも劣らない娯楽作から重厚な時代劇まで、この2本を続けてみればまた韓国映画の本気度が堪能できると思います。ベテランから若手まで役者の魅力だけでも楽しめますし、ストーリーはもちろん細部にこだわった技術の高さも楽しめる作品になっています。

様々な映画的記憶が詰まったSF映画の金字塔「ブレードランナー」、新たな傑作誕生との呼び声が高い新作「ブレードランナー 2049」が間もなく公開!

「ブレードランナー 2049」がいよいよ10月27日より公開されます。ひと足お先の全米では大ヒットスタートとはなりませんでしたが、映画業界や鑑賞者の評価はかなり高いようです。元々1982年公開の前作「ブレードランナー」も公開後にカルト的な人気を徐々に博して傑作SF映画になったことから、新作の初動の興行成績もこれでいいのかもしれません。

ということで、復習のために「ディレクターズカット ブレードランナー 最終版」を観直しました。リアルタイムで観ていない世代の私は、VHSもしくはテレビ放送で最初に観たと思うのですが、改めてブルーレイの高画質で観ると、さらにその映像の素晴らしさに驚嘆しました。

このバージョンは、ハリソン・フォード演じる主人公デッカードのナレーション、バイオレンス描写、そしてハッピーエンディングが削除され、一角獣の神秘的な映像が追加されています。なるほど最初に観たオリジナル版と比べると確かにすっきりした印象を持つと同時に、より余韻の残る作品に変化したように思います。

2019年ロサンゼルスの荒廃した未来都市、降り続く酸性雨、レプリカントと呼ばれる人造人間、空飛ぶ車、日本やアジアの電子広告など、35年前に作られたとは思えないクオリティと創造力で今観ても色あせることはありません。闇と光の映像表現が見事で、基本的には闇の中の世界に光が差しているといった方がいいでしょうか。

ブラインド越しの光が当たるデッカードの顔、外のライトが周期的に差し込む暗い屋内、久々の太陽(?)の光に照らされるショーン・ヤング演じるレプリカント、レイチェルの美しい顔、ルトガー・ハウアー演じるレプリカントの青い瞳としたたる汗や涙、そして雨を絶妙に映し出す光と、シド・ミードによる美術、造形の素晴らしさはもちろんのこと、映画的な光と闇の表現がこの作品をSF映画の金字塔にしているのだと思います。

また、今回観直して印象に残ったのは、やはりヴァンゲリスの音楽です。あのメインテーマが流れると、自然と心が踊ります。また、対照的なスローな曲がハードボイルド感を高めています。フォード演じる捜査官デッカードが着ているトレンチコートの姿には「カサブランカ」「三つ数えろ」などのハンフリー・ボガートの記憶が重なるし、白いハトはその後のジョン・ウー映画に継承されるなど、映画的な記憶とつながって様々な見方ができる作品です。

 

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まだ「ブレードランナー」を観たことがない方は、是非観てから新作「ブレードランナー 2049」を観ていただきたい。確実に映画の見方が変わる、人生の記憶に残っていく稀な作品だと思います。

熟成感漂うオダギリジョーの役作り、日本・キューバ合作の阪本順治監督「エルネスト もう一人のゲバラ」は今の時代だからこそ観るべき映画だ!

「この世の外へ クラブ進駐軍」(03年)、「人類資金」(13年)に続き、阪本順治監督とオダギリジョーが3度目のタッグを組んだ日本・キューバ合作映画「エルネスト もう一人のゲバラ」を観ました。オダギリジョーさんの役者としてのさらなる熟成を味わえる作品です。

2017年は、キューバ革命の歴史的英雄チェ・ゲバラが、1967年10月9日にボリビア戦線で39歳の若さで命を落としてから没後50年となります。そのボリビア戦線でゲバラと共に抵抗運動に身を投じ、志を貫いて殉じていった日系二世の若い戦士の鮮烈な、知られざる生涯を描いています。書籍「革命の侍 チェ・ゲバラの下で戦った日系2世フレディ前村の生涯」が原案で、オダギリジョーさんはこのフレディ前村ウルタードを演じています。

私もゲバラの生き様には感銘を受けた一人ですので、彼の生涯について勉強し、スタィーブン・ソダーバーグ監督の「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳 別れの手紙」(08年)や、ウォルター・サレス監督の「モーターサイクル・ダイアリーズ」(04年)などを観ましたが、あの激動の時代を共に駆け抜けた日系人がいたことは知りませんでした。ゲバラからファーストネーム「エルネスト」を授けられ、戦士名「エルネスト・メディコ(医師)」と呼ばれ、ボリビアの山中で25歳で散ったとのこと。

 

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オダギリジョーさんは役作りのために、約半年間でスペイン語(フレディの生まれ育ったボリビアのベニ州の方言)をマスターし、体重を12キロ減量し、さらに肌も褐色に日焼けして見事に革命の侍を演じています。こういった役ですと違和感を感じさせてしまうキャスティングもよくあるのですが、作品の世界にしっかりと染まっていて、国際的に活躍するオダギリジョーさんの映画俳優としての役者魂を感じました。

作品自体は、激動の時代を描いてはいますが、フレディがボリビア戦線に身を投じていくまでと、ゲバラの活動が同時平行にとてもどっしりと描かれていきます。私が印象的だったのは、オダギリジョーさん演じるフレディがゲバラに「その自信はどこからくるのですか?」と問うと、「怒っているからだよ。でも、その怒りは憎しみではない」といった台詞です。なぜ革命に身を投じたのか。その理由が少しわかったような気がしました。

阪本監督はいつもそうなのですが、劇的に盛り上げられそうなシーンもあえてさらっと描きます。そこがちょっと物足りなく、肩すかしを食らったりするのですが、今回もフレディが殺される場面が映画のピークになるようにはなっていませんでした。ソダーバーグ監督とはまた違う、ドキュメンタリー的な要素おも取り入れながらフレディの生涯を丁寧に描こうとしています。日本人の血を引く者の「祖国」への思いが観る者の心に迫ってきました。

日本の監督が、日本の俳優を使って、海外でここまでの映画が作れるようになったのだと、とても誇らしく思いました。ゲバラ好きの人はもちろん、知らない世代の人にも、人生に行き詰まっている人にも是非観て欲しい作品です。10月6日から公開中です。

「雨」のシーンが印象的なお気に入り映画は? 「ブレードランナー」「セブン」「七人の侍」など雨を効果的に描いている映画は傑作が多い

雨の日が続いています。雨の日が続くとやっぱりちょっと憂うつな気分になるのは私だけでしょうか。でも、映画で「雨」と言えば、やはり何と言っても、
・「雨に歌えば」

そして他にも、
・「シェルブールの雨傘」(64年)
・「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」(09年)
・「きみに微笑む雨」(09年)
・「黒い雨」(89年)
・「雨月物語」(53年)

タイトルに「雨」が入ってなくても、
・「七人の侍」(54年)
・「ショーシャンクの空に」(94年)
・「となりのトトロ」(88年)
・「言の葉の庭」(13年)
・「きみに読む物語」(04年)
・「ティファニーで朝食を」(61年)
・「ピアノ・レッスン」(93年)
・「セブン」(95年)
といった作品での雨のシーンが印象的です。他にもたくさんありますが。

 

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そして、いよいよ10月27日より新作が公開される「ブレードランナー」(82年)でしょう。この作品の雨はその後の映画に多大な影響を与えたと思います。新作「ブレードランナー 2049」は早くも傑作と評判を高まっています。

雨というシチュエーションは、映画的とても画になるシーンです。ここにあげた作品以外にも雨のシーンが印象的なものはありますが、気分が憂うつになった時こそこれらの映画を観て欲しいですね。私も久しぶりに「セブン」が観たくなりました。

 

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「最愛の子」を製作したピーター・チャン監督の真摯な思いに感銘、映画を撮ることの意義も教えてくれる、愛のヒューマン・ミステリー

香港のピーター・チャン監督の「最愛の子」(14年)は、現代中国で頻発している児童誘拐事件をテーマに、親が子を思う「至上の愛」と、子が親を慕う「無垢な愛」を描いたヒューマン・ミステリーです。子どもを持つ者としては、このような事件に巻き込まれたらと思うと、観ていていたたまれない気持ちになり、涙があふれてきました。

 

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しかし、「君さえいれば 金枝玉葉」(94年)、「ラヴソング」(96年)といったコメディや泣けるラブストーリーから「ウォーロード/男たちの誓い」(07年)などのアクション大作までを手掛けてきたヒットメイカーであるチャン監督が、このような社会問題を扱った作品を作るとは、観るまでちょっと意外な気がしていました。でも、中国国内では公開されるや大ヒットを記録し、社会に反響を巻き起こして、誘拐された子どもを買う親も重罪とする刑法改正を実現させてしまったというではないですか。映画の力ですね。

日本公開を前に来日したチャン監督にインタビューをする機会を得たのですが、実際に会ってみるとなんだか大学の教授のような物腰で、真摯に真っ直ぐに目を見据えて質問に答えてくれました。中国では、年間20万人もの子どもが行方不明になっていると言われ、08年3月に誘拐された男の子が、3年後に両親の元に帰ってきた実際の誘拐事件が基になっているというのです。現代中国が抱える「拡大する経済格差」や「一人っ子政策」(15年10月で廃止)などの問題をあぶり出し、観る者の良心を揺さぶる作品です。

でも、このような敏感な社会問題を扱った映画を中国で製作することは、中国政府による脚本の検閲や制約があり、やはり容易ではなかったとのこと。それでもチャン監督は「映画人が自粛してはいけない。撮りたいもの、描きたいものがあるのなら、自分に対して誠実であるべきだ」といった言葉が心に刺さりました。日本では考えられない事件ですが、北朝鮮による拉致事件は実際に起きているわけです。

これまで英国領だった香港の物語、中国のアイデンティティー、異国の地での香港人の心情、歴史アクションなどを描いてきたチャン監督。娯楽作を作っていても常に社会的なテーマを作品に反映させてきたように思います。「ラヴソング」は私も好きな一本です。

「最愛の子」は少々重いテーマではありますが、映画としての起伏(ハラハラ、ドキドキ)に富んだ面白さもしっかりとあるのはさすがチャン監督。そこに人気女優のヴィッキー・チャオをキャスティングし、彼女がノーメイクで母親を演じているのも見所の一つとなっています。韓国の女優もそうですが、映画に臨むこういった女優の姿勢は日本ももっと見習わなければなりませんね。

チャン・イーモウ監督と女優コン・リーの伝説のコンビが8年ぶりに復活した「妻への旅路」、中国映画史に思いを馳せると感慨深い

監督チャン・イーモウと女優コン・リーのコンビと言えば、映画史に残る数々の名作を生み出してきた名コンビですが、その2人が久々に組んだ2014年の作品「妻への家路」のプレスシートが出てきました。第67回カンヌ国際映画祭特別招待された作品で、アン・リー監督が絶賛し、スティーヴン・スピルバーグが泣いた作品です。

 

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1977年に中国の文化大革命が終結し、20年ぶりに解放された夫が妻の待つに家に戻ると、心労のあまり妻は夫の記憶のなくしていました。そして、帰らぬ夫を駅に迎えにいく妻の寄り添い、夫の隣で妻はひたすら夫を待ち続けるという、切ない夫婦の愛の物語が描かれます。

夫の記憶を失ってしまう妻をコン・リー、他人として妻に記憶を取り戻してもらおうと奮闘する夫を、中国最高の俳優とイーモウ監督が評する「HERO」(02年)などのチェン・ダオミンが味わい深く演じています。文化大革命に引き裂かれて20年、ようやく愛する妻の元に返って再会したのに、その妻が自分の記憶だけ失っているなんて、こんな切ないことがあるでしょうか。

私も新しい中国映画の底力を実感した「紅いコーリャン」(87年)や「秋菊の物語」(92年)、「初恋のきた道」(00年)などの傑作を生み出してきた伝説のコンビが8年ぶりに復活して完成した本作。中国の時代に翻弄された夫婦の愛の物語に胸が締め付けられる思いになりますが、それに加えてイーモウ監督がコン・リーを主演に映画を撮ったということでも感慨深い思いがこみ上げてくる作品です。

「紅いコーリャン」であの真っ赤な夕陽に照らされたコン・リーも50歳となりましたが、スクリーンの中の彼女はいつ観ても美しい。また、イーモウ監督がこれまでとは違った新しいコン・リーをフィルムに焼き付けています。そして、名優チェン・ダオミンが円熟味を増した演技で作品を支えています。

上海出身のアメリカ華僑作家であるゲリン・ヤンの「陸犯焉識」が原作で、反共産党員として逮捕され、労働思想改造に送られて、過酷な肉体労働を強いられて帰ってきた男が夫なわけです。単なる夫婦の愛の物語ではなく、1957年に毛沢東が発動した反右派闘争が実はさりげなく背景に描かれていて、中国の闇が根底にあるのです。

日本人とは違う苦難を味わった中国人夫婦の切ない愛の物語に涙するするもよし、イーモウ監督とコン・リーのコンビ復活作を堪能するもよし、中国の歴史や映画史に思いを馳せてみるとより味わい深い作品だと思います。

四方田犬彦先生の著書「日本映画史110年」は必読! この日本映画史を知らずして映画を語り作るなかれ!

大学時代のゼミの教授でもある四方田犬彦先生の著書「日本映画史110年」(集英社新書)を久しぶりに読み返しました。いや、2000年刊行の「日本映画史100年」を読んで以来なので、新たな論考を加えて14年に刊行されたこの増補改訂版は初めてということになります。

 

日本映画史110年 (集英社新書)

 

読みながら映画について必死に勉強しはじめていたあの頃を思い出しました。一度は頭に入れた日本映画史も改めて本書を読んでいると新たな発見がありました。というか改めて四方田先生の論考の鋭さを味わい、その的確なまとめ方に学ぶ喜びを感じました。

最初に日本映画の特徴について語られ、続いて年代順にわけて日本映画の歴史がわかりやすくまとめられています。活動写真(1896〜1918)、無声映画の熟成(1917〜30)、最初の黄金時代(1927〜40)、戦時下の日本映画、植民地・占領地における映画製作、アメリカ占領下の日本映画(1945〜52)、第二の全盛時代へ(1952〜60)、騒々しくも、ゆるやかな下降(1961〜70)、衰退と停滞の日々(1971〜80)、スタジオシステムの解体(1981〜90)、インディーズの全盛へ(1991〜2000)、製作バブルのなかで(2001〜11)と、全12章の構成になっています。

作家論や作品論ではなく、改めて、日本映画がいかにその時代の影響を受けて作られてきたのかという歴史が記されています。映画に限らず、政治や宗教、戦争、国際情勢、文化的視点などと、関係するあらゆる方面から語られるその日本映画史観には驚嘆させられます。

次世代の我々は今後どのように日本映画を語り継いでいくのか、どのような日本映画を制作していくべきなのかを考えさせられました。ここで論じられている日本映画史を知らずに映画を語ることはできませんし、知った上で作る映画はまったく異なってくると思います。

過去の日本映画とこれからの作られる日本映画の見方が変わる書物です。

四方田先生の壮大な知識の宇宙に陶酔しながら、次は「署名はカリガリ 大正時代の映画と前衛主義」(新潮社)を読みたいと思います。

ファン・ジョンミンの熱演に涙する感動作「国際市場で逢いましょう」、韓国映画界のスペシャリストが結集した韓国版「フォレスト・ガンプ 一期一会」

ファン・ジョンミン主演の韓国映画「国際市場で逢いましょう」のプレスシートが出てきました。韓国で1132万人を動員した「TSUNAMI ツナミ」のユン・ジェギュン監督が、情熱を注ぎ込み描き出した、家族への愛情溢れる一大叙事詩。動員1410万人を突破し、韓国歴代2位(公開当時)となる記録的な大ヒットとなりました。第65回ベルリン国際映画祭パノラマ部門にも正式出品されています。

 

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韓国・釜山の国際市場をメイン舞台に、朝鮮戦争の興南撤収、国民儀礼、ドイツ派遣、ベトナム戦争や南北分断で生き別れになった離散家族の捜索、韓国の歴史の重要な出来事が、一人の男の波乱に満ちた生涯を通して描かれています。まさに韓国版「フォレスト・ガンプ 一期一会」といっても過言ではない感動作です。

時代に翻弄されながらも愛する家族を守るために愚直なほどに懸命に生きる主人公ドクスをジョンミンが、青年期から老齢まで演じ切っています。風貌は無骨だが、心の温かい男を演じさせたら、韓国で右に出るものは今のところいないですね。共演には、ハリウッドでも活躍した「シュリ」(98年)のキム・ユンジン、名優オ・ダルス、チョン・ジニョンなど実力派の俳優が脇を固め、東方神起のユンホが本格的スクリーンデビューしているのも見所の一つとなっています。

韓国人気質といいましょうか、ドクスは思いきり笑って、泣いて、怒って時代を生き抜いていきます。その姿を見ると、家族とは何か、なぜ生きるのかを改めて考えさせられます。韓国の壮大な歴史を、一人の男の生涯を通して家族の物語として描いたジェギュン監督の手腕は見事です。国民の父を演じることを託されたジョンミンが最強の演技力で見事に応えています。スタッフは韓国映画界きってのスペシャリストが結集し、1950年から80年代までの韓国を見事に再現しています。

こんなにも苦難が押し寄せるのかというくらいドクスは波瀾万丈の人生を送るのですが、いつの時代も本当に大切なものは何なのか気づかせてくれる作品です。生きる意味を見失いかけているか方、家族との関係に疲れている方、韓国の歴史を学びたい方、そして自分の運命に辟易している方などにおススメです。韓国映画の底力にも圧倒されます。

大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題でハリウッドが激震!彼が手掛けた傑作たちはどうなってしまうのか…

アメリカの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題でハリウッドに激震が走っていることが連日報道されています。報道の通り、権力による女性に対するセクハラは許されるものではありません。まさに陳腐なドラマのように、このようなことが実際に長い間、夢の都ハリウッドの裏側で行われていたとは…。

ワインスタインが70年代後半に最初に立ち上げた独立系映画配給会社ミラマックスは、ブロックバスター作品を手掛けるハリウッドのメジャー会社を相手に、アートハウス映画を商業的にも批評的にも次々に成功させました。スティーブン・ソダーバーグ監督の「セックスと嘘とビデオテープ」(89年)、ニール・ジョーダン監督の「クライングゲーム」(93年)など。その成功からディズニーに8000万ドルで会社を売却し、その後も会長としてハリウッドで影響力を強めていきました。

そして初めてのブロックバスター映画、クエンティン・タランティーノ監督の「パルプ・フィクション」(94年)が大ヒット。96年公開の「イングリッシュ・ペイシェント」がミラマックス作品として初めてアカデミー作品賞を受賞しました。その後も、97年「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」、98年「恋におちたシェイクスピア」でアカデミー作品賞を受賞しています。ミラマックス作品はなんと05年までに249個ものアカデミー賞ノミネートを獲得したとのこと。

独立系映画配給会社からスタートし、時代の寵児、ハリウッドの大物プロデューサーに成り上がりました。ここにあげた作品だけでも、メジャースタジオが手掛けない作家性のある傑作、秀作、意欲作ばかりです。タランティーノの「パルプ・フィクション」には私も大きな影響を受けました。

さらに05年にはミラマックスを退社し、新たに製作会社ワインスタイン・カンパニーを設立。そこからまた09年「イングロリアス・バスターズ」、10年「英国王のスピーチ」、11年「アーティスト」、12年「世界にひとつのプレイブック」「ザ・マスター」などをプロデュースしています。

監督の作家性を生かしながら商業的にもヒットさせ、批評的にも高い評価を得てきた希有な映画プロデューサーと言えるでしょう。会社名と彼の名はひとつの映画ブランドになっていたと思います。大資本で動いているハリウッドの構造を変えたといっても過言ではないのではないでしょうか。

日本の独立系の製作・配給会社がこのような成功を収められたら、日本映画界の構造も少しは変えられるのかもしれません。それだけにワインスタインは憧れの映画プロデューサーの一人でした。なので今回明るみになったセクハラ問題はとても残念ですし、大きなショックです。

 

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このことで過去に彼がプロデュースした映画の評価も貶められてしまうのでしょうか。この問題は今後、いろいろな方面に波及していくと思われます。彼と一緒に仕事をした監督や俳優たちが非難の声明を出していますが、ハリウッドの歴史に泥を塗ってしまったことは消せそうにありません。

ジャン=リュック・ゴダール監督の2代目ミューズ、仏女優アンヌ・ヴィアゼムスキーさん逝去

ジャン=リュック・ゴダール監督の2代目ミューズ、仏女優のアンヌ・ヴィアゼムスキーさんが10月5日に乳がんのため亡くなったと仏メディアが報じました。70歳だったとのこと。

私は断然初代ミューズのアンナ・カリーナ派なのですが、訃報を聞いてまた一つの時代が終りを告げたのだと思いました。

報道によれば、アンヌさんは1947年にドイツに生まれ、64年の18歳の時にロベール・ブレッソン監督「バルタザールどこへ行く」で映画デビューを果たしました。

そして、67年にゴダール監督の「中国女」で主演を務め、アンナ・カリーナとはまた違った魅力で世界にその存在を知らしめました。同年にはゴダール監督と結婚し、「ウィークエンド」(67年)、ゴダールらが設立したジガ・ヴェルトフ集団による「東風」(70年)、「万事快調」(72年)などの、67年以降商業映画と決別宣言した作品に出演します。しかし、ゴダール監督が商業映画に復帰した「勝手に逃げろ/人生」の79年に離婚しました。

ゴダール作品以外では、ピエル・パオロ・パゾリーに監督「テオレマ」(68年)、フィリップ・ガレル監督「秘密の子供」(82年)、アンドレ・テシネ監督「ランデヴー」などの作品に出演。ガレル監督「彼女は陽光の下で長い時間を過ごした」(85年)以降は映画には出演していません。

一方で、小説家としても活躍し、自伝的小説「彼女のひたむきな12カ月」にはゴダールとの恋愛関係を赤裸々につづって話題となりました。

アンナ・カリーナとはまた違った魅力と前述しましたが、アンナが陽ならばアンヌは陰のイメージでしょうか。どうしても政治色の強いジガ・ヴェルトフ集団の作品に出演していたことも影響しているでしょう。

とはいえ同時の天才ゴダールの創作意欲をかき立てた存在、女性であったことは事実で、プライベートな彼女は映画の中のイメージとは違う魅力を持った女性だったのでしょう。

映画青年だった大学生の時に観て多大な刺激を受けたゴダールの傑作の一本、「ウィークエンド」からすでに50年が経ったのだと思うと、なんだかとても感慨深いものがこみ上げてきました。

アンナ・カリーナとよく比較されたと思いますが、女優アンヌさんの姿はゴダールの作品とともに生き続けるわけで、選ばれし希有な女優の一人だったということですね。ご冥福をお祈り申し上げます。

 

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週末にでも「ウィークエンド」を見返したくなりました。