「スコセッシ流監督術」を読めば、巧みに計算し尽くされたマーティン・スコセッシ監督作品をより理解することが出来る必読の書

前回に続き映画本について紹介したいと思います。「名監督の技を盗む! スコセッシ流監督術」(発行:ボーンデジタル)は、監督が観客を映画の世界に引き込む、画作りの魔法を解き明かすもの。監督を志す人はもちろん、映画ファンにとってもその監督の作品をより深く理解することが出来る必読書となっています。

 

名監督の技を盗む! スコセッシ流監督術

 

本書のマーティン・スコセッシは現代アメリカ映画の最高の監督の一人です。スコセッシ監督作品を観たことがあるでしょうか? このブログを読んでくれている方はもちろん観ていると思いますが、スコセッシ監督は映画の歴史も熟知した映画愛のある博士であり、制作においては極めて「映画的な技法」を駆使して物語を語ることが出来る数少ない監督の一人でもあります。

また、俳優の良さを引き出しながらカメラワークやビジュアルで視覚的に物語を語ることが出来るところでしょう。スコセッシ監督特有の流れるようなカメラワークと編集、ナレーションで2時間だろうが3時間だろうが時間を感じさせない語り口は圧巻ですが、実は各シーンが巧みに計算し尽くされたショットから成り立っていることに気づく人はかなりのスコセッシファンか映画ファンだけでしょう。

例えセリフがなくてもカメラの動き一つ、ビジュアル的な記号だけで、物語を語り、登場人物の心情を表現するテクニックは簡単にマネできるものではなく、膨大な映画的知識があってこそそのテクニックが効果的に生かせるのでしょう。

シンプルな肩越しショットの使用やフリーズフレーム、フラッシュ、スローモーションなどはスコセッシ監督の定番技法ですが、ここぞというシーンでは凝りに凝ったスタイルと大胆な技法、独創的なショットを駆使するのです。そうしたシーンの積み重ねからの強弱が観ている観客を唸らせているのです。

そういったポイントが、「タクシードライバー」「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「レイジング・ブル」「ディパーデット」といった作品を例に、著者のクリストファー・ケンワーシーによって丁寧に細かく解説されています。本書を片手に各作品のシーンを観直すとより映画を楽しむことができるものとなっています。

スコセッシ監督にとっては呼吸をするようなことなのかもしれませんが、今の日本でこうした映画的な表現が出来る監督は、ベテランでも極めて少ないのが現状です。映画は総合芸術だと言われますが、スコセッシ監督は巨匠となりながらも毎回映画的なチャレンジをしているのには頭が下がります。

若手監督とっては本書を読むと、映画的表現とは何か、映画の演出とは何かに気づかせてくれると思います。

コメントを残す