生きる伝説の映画人クリント・イーストウッド、「許されざる者」はある種の贖罪的な作品でありながら最大のカタルシスを得られる西部劇だ

クリント・イーストウッド、御年83歳。生きる伝説の映画人と言っても過言ではないでしょう。俳優としては、台詞を吐かなくても苦みばしった表情ひとつで全てを伝えられる男。監督としては、彼の生きてきた映画人生を反映した独自の作品を撮れる男。クリント・イーストウッドという一人の男が、一つの「映画」のジャンル、歴史になっているとも言えるのではないでしょうか。

出世作のマカロニウェスタンや「ダーティハリー」シリーズなどで、劇中で多くの人を撃ち殺してきたイーストウッドが監督した異色の西部劇「許されざる者」(92年)は、映画ファンへ向けたある種の贖罪のような映画でした。

イーストウッドが演じるかつて女、子供まで撃ち殺したと言われる無法者の男は、自分を立ち直らせてくれた愛する妻を失い、今は貧しい農夫として2人の幼い子供と静かに暮らしていたのですが、子供の将来も考えて、若いガンマンからの賞金稼ぎの話に乗ります。

どんな理由であれ、人を殺すことの罪の重さ、一発の銃弾の重さをイーストウッド監督は静かに描きます。自分が犯してきた過去の過ちについては、罪の意識を背負いながら死ぬまで生きていくのです。そんなイーストウッドならではの映画の中での生き様が伝わってきます。

しかし、人間の本性というものはそんなに簡単に変われるものではないことも訴えてきます。ひとたび自分の中の怒りの炎に火がつくと、かつてのマカロニウェスタンで演じた無法者や、「ダーティハリー」で演じた凄腕刑事ハリー・キャラハンのごとく、「悪党」を撃ち殺します。矛盾するようですが、ここがイーストウッド作品の最大のカタルシスにもなるわけです。

その時の恐ろしいまでの目つき、表情は、イーストウッドにしか表現できないものでしょう。でも、観る側は、歌舞伎役者が見得を切るがごとく、イーストウッドの凄み=見得に対して、「待ってました!」とばかりに心の中で喝采を送ることになるのです。

 

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この「許されざる者」は、イーストウッドの師匠でもあるセルジオ・レオーネ監督とドン・シーゲル監督に捧げられているのもファンには堪らない感慨を覚えます。本ブログは、今後もイーストウッド作品を取り上げていく予定です。

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