7月下旬、偉大な映画人が続けて亡くなったので、記しておかねばなりません。フランスの大女優ジャンヌ・モローと、アメリカの劇作家で俳優のサム・シェパードです。相次ぐ訃報は残念でなりません。
ジャンヌは、フランソワ・トリュフォー監督の「突然炎のごとく」(62年)や「黒衣の花嫁」(68年)、ルイ・マル監督「死刑台のエレベーター」(58年)などの映画で世界的な評価を得た、60年代のフランスのヌーベルバーグ全盛期を象徴する女優です。
ミステリアスで、猫のように気難しく、強い自我を持ち、だけど美しく魅惑的な女性を演じさせたら右に出るものはいないほど、「ジャンヌ・モロー」という女優のジャンルを確立した人でした。そんなところが男性からだけでなく、女性からも憧れる存在となったのだと思います。
「突然炎のごとく」の時のカトリーヌ役は、自由奔放で、2人の男を翻弄する様は、映画を観ているこちらも振り回されているようでした。笑っていたかと思えば突然怒り、泣き出したり、天然そうでありながら冷静に異性との関係を分析していたりして。その表情、瞳、皺の一本一本まで女優だったと言えるのではないでしょうか。
ジョゼフ・ロージーやオーソン・ウェルズ、ルイス・ブニュエルといった名監督たちの作品でも活躍。歳をとってもその魅力は失われず、リュック・ベッソン監督の「ニキータ」(90年)でも元気な姿を見せ、近年は祖母役や老女などを演じ貫禄を示していました。1928年生まれの89歳でした。
サムは、私の中では何と言ってもヴィム・ヴェンダース監督「パリ、テキサス」(84年)の脚本家として尊敬する作家でした。70年代にイギリスのロンドンに渡って、演劇界で脚本や演出を手掛ける一方、俳優としても活動。74年にアメリカに帰国し、79年の戯曲でピュリッツァー賞を受賞。「ライトスタッフ」(83年)ではアカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。
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近年も「マグノリアの花たち」(90年)、「ブラックホーク・ダウン」(01年)、「8月の家族たち」(13年)など数々の映画に出演し、渋みのあるいい味を出していました。現代アメリカ人の生活の裏にある闇を描き出す才能に秀でていました。1943年生まれの73歳でした。
映画界はまた偉大な才能を失うなったわけですが、2人の作品は残っていますので、久しぶりに見返したいと思います。ご冥福をお祈り申し上げます。