三池節炸裂のグロテスクな「無限の住人」を堪能するも、違和感と物足りなさを感じずにはいられない。

遅ればせながら木村拓哉主演の映画「無限の住人」を観た。昨年4月29日に公開され、興行成績は最終的にヒットの目安である10億円に届かず、惨敗と言ってよい結果だった。SMAPの独立問題、解散問題でキムタクが裏切り者扱いされたことも多少影響したことだろう。

 

無限の住人 ブルーレイ&DVDセット プレミアム・エディション(初回仕様/3枚組) [Blu-ray]

 

そんな結果も出ていたので、作品への期待のハードルが下がっていたこともあるが、私は思ったよりも面白かった。というかそれは俳優キムタクへの評価ではなく、やはり三池崇史監督作品としての面白さである。Vシネマ時代に感じた奇形な面白さが久々に感じられたのである。

 

原作は沙村広明のよる人気時代劇コミック。伝説の人斬り・万次は、賞金稼ぎの手によって妹・町の命を奪われてしまう。生きる意味を見失った万次だったが、謎の老婆によって無理やり、死にたくても死ねない「無限の体」にされてしまったという設定。

 

原作コミックは未読であるが、冒頭から斬りまくる殺陣シーンが展開し、血を吹き、腕は切断され、グロテスクで凄惨なシーンが連続する。さすが三池監督!と唸らされた。人斬り役のキムタクも画になっているし、殺陣も見事にこなしているではないか。これはもしや、興行的にはふるわなかったが、実は秀作ではないかと期待したほど。

 

しかし、その後はドラマ展開としていささか単調となってしまい、なぜヒットしなかったのかが見えてきた。まず、女性層には血しぶきや切断される手足は見ていてキツかったであろう。キムタクファンも傷だらけの顔と、手が切断されてくっつくなどするキムタクの姿に戸惑ったに違いない。敵の剣客集団・逸刀流の統首・天津役として、人気若手俳優の福士蒼太が投入されているが、メイクのせいなのかなんだか顔がのっぺりとしているし、凄腕剣士としてはどうにも魅力(殺気)が感じられない。

 

また、福士への復讐の動機となるヒロイン・凛役の杉咲花は、時代背景に馴染まない可愛さで、泣き叫び、違和感を覚えてしまう。凛が殺された万次の妹に似ているというのが肝なのだが、早々に斬り殺されてもおかしくない無謀な行動を繰り返すので興ざめしてしまう。

 

天津の仲間として、北村一輝、満島真之介、市川海老蔵、戸田恵梨香、市原隼人が演じる刺客が現れ、万次と対決するのだが、万次は死なないとわかっているだけに、その対決に緊張感はない。それぞれにドラマは帯びているのだが、残念ながら単調で活きてこないのだ。唯一、紅一点の戸田が美しい殺気を放っていた。

 

ただし、撮影、照明、美術、殺陣などは目を見張るほど素晴らしい。照明の明暗や日差しの差し方、リアルな美術装置は映画的なリアリティと美しさを堪能できる。「十三人の刺客」(2010年)で新しい時代劇の到来を告げた三池時代劇の進化形と言えなくもないが、もっといい作品にできたのではないかと思わずにはいられない、惜しい作品である。

コメントを残す