チャン・イーモウ監督と女優コン・リーの伝説のコンビが8年ぶりに復活した「妻への旅路」、中国映画史に思いを馳せると感慨深い

監督チャン・イーモウと女優コン・リーのコンビと言えば、映画史に残る数々の名作を生み出してきた名コンビですが、その2人が久々に組んだ2014年の作品「妻への家路」のプレスシートが出てきました。第67回カンヌ国際映画祭特別招待された作品で、アン・リー監督が絶賛し、スティーヴン・スピルバーグが泣いた作品です。

 

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1977年に中国の文化大革命が終結し、20年ぶりに解放された夫が妻の待つに家に戻ると、心労のあまり妻は夫の記憶のなくしていました。そして、帰らぬ夫を駅に迎えにいく妻の寄り添い、夫の隣で妻はひたすら夫を待ち続けるという、切ない夫婦の愛の物語が描かれます。

夫の記憶を失ってしまう妻をコン・リー、他人として妻に記憶を取り戻してもらおうと奮闘する夫を、中国最高の俳優とイーモウ監督が評する「HERO」(02年)などのチェン・ダオミンが味わい深く演じています。文化大革命に引き裂かれて20年、ようやく愛する妻の元に返って再会したのに、その妻が自分の記憶だけ失っているなんて、こんな切ないことがあるでしょうか。

私も新しい中国映画の底力を実感した「紅いコーリャン」(87年)や「秋菊の物語」(92年)、「初恋のきた道」(00年)などの傑作を生み出してきた伝説のコンビが8年ぶりに復活して完成した本作。中国の時代に翻弄された夫婦の愛の物語に胸が締め付けられる思いになりますが、それに加えてイーモウ監督がコン・リーを主演に映画を撮ったということでも感慨深い思いがこみ上げてくる作品です。

「紅いコーリャン」であの真っ赤な夕陽に照らされたコン・リーも50歳となりましたが、スクリーンの中の彼女はいつ観ても美しい。また、イーモウ監督がこれまでとは違った新しいコン・リーをフィルムに焼き付けています。そして、名優チェン・ダオミンが円熟味を増した演技で作品を支えています。

上海出身のアメリカ華僑作家であるゲリン・ヤンの「陸犯焉識」が原作で、反共産党員として逮捕され、労働思想改造に送られて、過酷な肉体労働を強いられて帰ってきた男が夫なわけです。単なる夫婦の愛の物語ではなく、1957年に毛沢東が発動した反右派闘争が実はさりげなく背景に描かれていて、中国の闇が根底にあるのです。

日本人とは違う苦難を味わった中国人夫婦の切ない愛の物語に涙するするもよし、イーモウ監督とコン・リーのコンビ復活作を堪能するもよし、中国の歴史や映画史に思いを馳せてみるとより味わい深い作品だと思います。

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