「最愛の子」を製作したピーター・チャン監督の真摯な思いに感銘、映画を撮ることの意義も教えてくれる、愛のヒューマン・ミステリー

香港のピーター・チャン監督の「最愛の子」(14年)は、現代中国で頻発している児童誘拐事件をテーマに、親が子を思う「至上の愛」と、子が親を慕う「無垢な愛」を描いたヒューマン・ミステリーです。子どもを持つ者としては、このような事件に巻き込まれたらと思うと、観ていていたたまれない気持ちになり、涙があふれてきました。

 

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しかし、「君さえいれば 金枝玉葉」(94年)、「ラヴソング」(96年)といったコメディや泣けるラブストーリーから「ウォーロード/男たちの誓い」(07年)などのアクション大作までを手掛けてきたヒットメイカーであるチャン監督が、このような社会問題を扱った作品を作るとは、観るまでちょっと意外な気がしていました。でも、中国国内では公開されるや大ヒットを記録し、社会に反響を巻き起こして、誘拐された子どもを買う親も重罪とする刑法改正を実現させてしまったというではないですか。映画の力ですね。

日本公開を前に来日したチャン監督にインタビューをする機会を得たのですが、実際に会ってみるとなんだか大学の教授のような物腰で、真摯に真っ直ぐに目を見据えて質問に答えてくれました。中国では、年間20万人もの子どもが行方不明になっていると言われ、08年3月に誘拐された男の子が、3年後に両親の元に帰ってきた実際の誘拐事件が基になっているというのです。現代中国が抱える「拡大する経済格差」や「一人っ子政策」(15年10月で廃止)などの問題をあぶり出し、観る者の良心を揺さぶる作品です。

でも、このような敏感な社会問題を扱った映画を中国で製作することは、中国政府による脚本の検閲や制約があり、やはり容易ではなかったとのこと。それでもチャン監督は「映画人が自粛してはいけない。撮りたいもの、描きたいものがあるのなら、自分に対して誠実であるべきだ」といった言葉が心に刺さりました。日本では考えられない事件ですが、北朝鮮による拉致事件は実際に起きているわけです。

これまで英国領だった香港の物語、中国のアイデンティティー、異国の地での香港人の心情、歴史アクションなどを描いてきたチャン監督。娯楽作を作っていても常に社会的なテーマを作品に反映させてきたように思います。「ラヴソング」は私も好きな一本です。

「最愛の子」は少々重いテーマではありますが、映画としての起伏(ハラハラ、ドキドキ)に富んだ面白さもしっかりとあるのはさすがチャン監督。そこに人気女優のヴィッキー・チャオをキャスティングし、彼女がノーメイクで母親を演じているのも見所の一つとなっています。韓国の女優もそうですが、映画に臨むこういった女優の姿勢は日本ももっと見習わなければなりませんね。

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