熟成感漂うオダギリジョーの役作り、日本・キューバ合作の阪本順治監督「エルネスト もう一人のゲバラ」は今の時代だからこそ観るべき映画だ!

「この世の外へ クラブ進駐軍」(03年)、「人類資金」(13年)に続き、阪本順治監督とオダギリジョーが3度目のタッグを組んだ日本・キューバ合作映画「エルネスト もう一人のゲバラ」を観ました。オダギリジョーさんの役者としてのさらなる熟成を味わえる作品です。

2017年は、キューバ革命の歴史的英雄チェ・ゲバラが、1967年10月9日にボリビア戦線で39歳の若さで命を落としてから没後50年となります。そのボリビア戦線でゲバラと共に抵抗運動に身を投じ、志を貫いて殉じていった日系二世の若い戦士の鮮烈な、知られざる生涯を描いています。書籍「革命の侍 チェ・ゲバラの下で戦った日系2世フレディ前村の生涯」が原案で、オダギリジョーさんはこのフレディ前村ウルタードを演じています。

私もゲバラの生き様には感銘を受けた一人ですので、彼の生涯について勉強し、スタィーブン・ソダーバーグ監督の「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳 別れの手紙」(08年)や、ウォルター・サレス監督の「モーターサイクル・ダイアリーズ」(04年)などを観ましたが、あの激動の時代を共に駆け抜けた日系人がいたことは知りませんでした。ゲバラからファーストネーム「エルネスト」を授けられ、戦士名「エルネスト・メディコ(医師)」と呼ばれ、ボリビアの山中で25歳で散ったとのこと。

 

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オダギリジョーさんは役作りのために、約半年間でスペイン語(フレディの生まれ育ったボリビアのベニ州の方言)をマスターし、体重を12キロ減量し、さらに肌も褐色に日焼けして見事に革命の侍を演じています。こういった役ですと違和感を感じさせてしまうキャスティングもよくあるのですが、作品の世界にしっかりと染まっていて、国際的に活躍するオダギリジョーさんの映画俳優としての役者魂を感じました。

作品自体は、激動の時代を描いてはいますが、フレディがボリビア戦線に身を投じていくまでと、ゲバラの活動が同時平行にとてもどっしりと描かれていきます。私が印象的だったのは、オダギリジョーさん演じるフレディがゲバラに「その自信はどこからくるのですか?」と問うと、「怒っているからだよ。でも、その怒りは憎しみではない」といった台詞です。なぜ革命に身を投じたのか。その理由が少しわかったような気がしました。

阪本監督はいつもそうなのですが、劇的に盛り上げられそうなシーンもあえてさらっと描きます。そこがちょっと物足りなく、肩すかしを食らったりするのですが、今回もフレディが殺される場面が映画のピークになるようにはなっていませんでした。ソダーバーグ監督とはまた違う、ドキュメンタリー的な要素おも取り入れながらフレディの生涯を丁寧に描こうとしています。日本人の血を引く者の「祖国」への思いが観る者の心に迫ってきました。

日本の監督が、日本の俳優を使って、海外でここまでの映画が作れるようになったのだと、とても誇らしく思いました。ゲバラ好きの人はもちろん、知らない世代の人にも、人生に行き詰まっている人にも是非観て欲しい作品です。10月6日から公開中です。

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