笑って泣ける感動作「ペコロスの母に会いに行く」は、岩松了の確かな演技力とユーモアをもって重いテーマを描いた秀逸のインディ映画だ

2013年キネマ旬報ベスト・テン第1位ほか、数々の映画賞を総なめにした笑って泣ける感動作「ペコロスの母に会いに行く」を、遅まきながらやっと観ました。ずっと観ようと思いながら見逃していたのですが、なるほど、高い評価を得たことに納得がいきました。

少子高齢化の時代、高齢者の認知症はとても重いテーマでありますが、忘れていくことも悪いことじゃないと、前向きに描き、認知症の母の過去への思いが明らかになっていくにつれ、観る者に感動を与えます。

まず、原作は未読ですが、恐らく原作の世界観をしっかりと踏襲しているであろう阿久根知昭さんの脚本が素晴らしい。ブレイクポイントがわかりやすく、しっかりとした構成でありながら話のテンポに軽快さを感じました。過去と現在を行き来しつつ、映画的な表現によって、観る者を混乱させることなく、作品世界に誘い込みます。

そして、森崎東監督の演出。主人公・ゆういちを演じた岩松了さんをはじめ、母役の赤木春恵さん、加瀬亮さん、竹中直人さん、松本若葉さん、温水洋一さん、根岸季衣さんなどの芸達者な役者たちの個性を生かしつつ、物語の世界の中に見事にはめ込んでいます。また、原田貴和子さんと原田知世さん姉妹の共演も見どころです。

長崎を舞台に、登場人物たちの様々な人生が交錯し、普通ならばもっと暗い映画になってもおかしくないのですが、辛い出来事をユーモアをもって描いているところが本作の秀逸なことろです。

なかでも主人公・ゆういちを演じた岩松さんの演技が素晴らしい。飄々としながらも時折見せる真剣な眼差しが、ユーモアだけでは救われない現実があることを表現していると思いました。母に忘れられてしまった時の悲しみ、おぼろげに思い出される苦労していた母との幼少期の思い出、それでも酒飲みで神経症だった亡くなった父への愛を語ります。

一方で男やもめで、無職になりながらも漫画を描いたり、音楽活動をしている中年のゆういちは、自由人にも見え、そんな彼の性格が辛い現実の救いにもなっているようです。母が忘れてしまった時に、小さなたまねぎ「ペコロス」のような自分のハゲ頭を見せて思い出させるシーンは笑って泣ける名シーンでした。

インディペンデントの映画でありながら、これだけの俳優たちを配し、見事な脚本と森崎監督の演出力で、商業的にもしっかりと結果を残した製作体制・展開には、プロデューサーとして学ぶべきものが多いです。映画的な世界の中で人間を描こうとしている姿勢が伝わってきました。

 

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人生は辛いことばかりかもしれない。それでも生きていかなくてはならない。それは家族や親しい人がいてこそで、一人では生きていけないことを改めて気づかせてくれる作品です。

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