「名監督の技を盗む! スコセッシ流監督術」(発行:ボーンデジタル)に続き、「名監督の技を盗む! タランティーノ流監督術」(同)を読みました。観客を一気に映画の世界へ引き込む、画作りの魔法を、クリストファー・ケンワーシーが解き明かしています。
クエンティン・タランティーノ監督の登場は、映画青年だった当時の私には衝撃的で、すぐに憧れの存在となりました。監督デビュー作「レザボア・ドッグス」(91年)で彗星のごとく登場し、その脚本の面白さからジョン・トラボルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ブルース・ウィリスらスターがこぞって出演した監督第2作「パルプ・フィクション」(94年)で第47回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞、時代の寵児となりました。
高校中退後、俳優を目指しながらレンタルビデオ屋の店員になり、膨大な数の映画を鑑賞する生活を送っていたという経歴から映画オタク監督のように評されていた時期もありましたが、本書を読めば、タランティーノ監督が画でストーリーを語ることのできる、映画の魔法を心得た映画作りをしていることが改めてわかります。
彼の映画を観ている観客は何気なく観てしまっているかもしれませんが、実はその可笑しさや突然の暴力、恐怖、不安といったものを引き起こすためにここまで計算して撮影していたのかと驚くことでしょう。そのタランティーノ監督の狙いを知った上で観ると、また映画が数倍面白くなることでしょう。
もちろんタランティーノ監督作品はそんな画作りだけでなく、何気ないくだらない会話やウィットの富んだ台詞、シーンにあった音楽の選曲、過去の名作にオマージュを捧げている映画愛など、映画ファンの心理をくすぐる楽しめる要素はいくらでも詰められています。
本書を読んだ後に、長編第8作「ヘイトフル・エイト」(15年)を観ました。186分という長尺ですが、大雪のため閉ざされたロッジで繰り広げられる密室ミステリーを描いた西部劇です。これがまた冒頭から伏線が張られたミステリーで、話が進むごとに徐々に謎を明かしながらも次々と主要人物が死んでいくのですが、最初から最後まで緊張感のある見事な作品です。
タランティーノ作品常連のサミュエル・L・ジャクソンをはじめ、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーンらが出演し、みないい味を出しています。彼らの名演もさることながら、緻密に練り上げられた脚本とそれに沿った凝りに凝った撮影が楽しめ、過去のアメリカの歴史や戦争、人種問題なども盛り込みつつ、映画的なカタルシスを与えてくれます。
また、この作品でタランティーノ監督が敬愛する巨匠エンニオ・モリコーネが音楽を担当し、第88回アカデミー賞で作曲賞を受賞したことも感慨深い作品で、しかも70ミリのフィルムで撮影され、画面は2.76:1というワイドスクリーンで描かれているのも映画ファンにはたまらない要素でしょう。
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本書を読めば、久しぶりにタランティーノ監督作品を観たくなること間違いなしです。あなたのタランティーノ作品ベスト1はどの作品でしょうか。私は甲乙つけがたいですが、1位「パルプ・フィクション」、2位「レザボア・ドッグス」、3位「ジャッキー・ブラウン」です。