第90回アカデミー賞でフランシス・マクドーマンドが主演女優賞を受賞した「スリー・ビルボード」を授賞式(日本時間3月5日)前に観た。純粋に素晴らしい作品だった。揺るぎない、語るべきテーマが核としてあり、マーティン・マクドナー監督を中心に、キャスト、スタッフがこの作品を信じて制作したことがスクリーンから伝わってきた。
何者かに娘を殺された母親が、7カ月経っても犯人の捕まらない状況に業を煮やしある行動をとる。頼りにならない警察への母親の怒りが、アメリカ・ミズーリ州の片田舎の社会や人間関係を揺り動かし、波紋を広げ、様々な事件を引き起こしていく。
この作品はイギリス映画で、ハリウッド作品に比べれば低予算で制作されたと思われる。だが、ウディ・ハレルソンや、同じくアカデミー賞で助演男優賞を受賞したサム・ロックウェルらが共演しており、いわゆる日本の低予算映画よりもゼロが2つほど多いだろう。
大金をかけなくてもこんなにも志の高い、信念のある作品が作れることに敬意を表したい。日本のインディ映画の企画に制作資金がなかなか集まらないことを嘆いていることが恥ずかしくなった。本当にその企画を信じて取り組めば、同じ思いを持った仲間は集まるに違いない。
この作品からは様々なことを考えさせられたが、一番印象的だったのは「怒りは怒りを来す」という台詞、言葉だ。フランシス演じる母親の行動はエスカレートし、許されないものもある。けれど、演じるフランシスの信念の宿った眼(表情)を観ただけで泣けてきてしまう。自分とは異なる他人に寛容になることは容易ではない。他人を許し、自分の過ちを認めることは勇気がいる。
この映画は、人間社会が抱える様々な問題に対する答えを描いてはいない。この映画を観た観客自身それぞれが、観終わった後に自分に問いかけるようなラストになっている。