「レオン」(94年)のあの可愛いお転婆娘が、まさかこれほどまでに美しく、演技派の女優に成長しようとは予想以上だったのではないでしょうか。少女マチルダ役に、オーディションで選ばれた当時12歳のナタリー・ポートマンは、それから17年後に第83回米アカデミー賞で主演女優賞を見事獲得しました。
その作品はダーレン・アロノフスキー監督の心理スリラー「ブラック・スワン」。「白鳥の湖」をモチーフに、禁断の変身願望に魅入られたバレリーナの物語を、純真と官能がせめぎ合う衝撃的な映像世界で表現しています。「レオン」で孤独な殺し屋に生きる目標を与えたナタリーは、「ブラック・スワン」の過酷な役作りで女優としての限界に挑戦し、孤独なバレリーナの極限の真理を見事に体現しました。
プレスシートは、透かしの表紙が付いており、作品世界に合わせ、ブラックとホワイトを基調としたページ組、デザインになっています。劇中の美しい映像のカット写真がふんだんに使用され、写真集としても成立するクオリティになっています。全14ページで、イントロダクション、ストーリーに続き、ナタリー、共演のヴァンサン・カッセル、ミラ・クニスらキャスト、アロノフスキー監督らスタッフが紹介され、貴重なプロダクションノートも掲載されています。
アロノフスキー監督の長編デビュー作、数字に取り憑かれた男の破滅的な運命を描いた不条理スリラーの「π」(97年)、ドラッグを題材にした衝撃的なストーリーの第2作「レクイエム・フォー・ドリーム」(00年)を観た時の驚きは今も鮮明に覚えています。独特なイマジネーション、新しい幻想的な映像表現をもった才能が登場したなと。そして、ミッキー・ロークの復活作となった「レスラー」(08年)では、落ちぶれたプロレスラーの孤独を哀感たっぷりに描き、その確かな演出力を示しました。
そして「ブラック・スワン」では、主人公のバレリーナが新シーズンの「白鳥の湖」のプリマに選ばれたがために、そのプレッシャーと役への入り込みから徐々に「白鳥」と「黒鳥」、「正気」と「狂気」の境目が曖昧になり、精神的に追い込まれていく様を、幻想的で美しい映像と音楽で描き切りました。観ている方も心理的に追い込まれていくような作品でした。
監督の独特な頭の中を観ているような作品であり、次第に精神的バランスを崩していく主人公を演じたナタリーの演技は一見の価値有り。映画的に刺激的な映像表現を堪能したい方や、精神的に不安定な状況にある方に観て欲しい作品です。逆に我にかえるきっかけになる、客観的な視点が得られると思います。
2010年/カラー作品/シネマスコープ/110分/ドルビーSR・SRD、DTS
配給:20世紀フォックス映画