傑作「パリ、テキサス」から20年、監督ヴィム・ヴェンダースと脚本サム・シェパードが再び組んだ「アメリカ、家族のいる風景」

高校生の時に観たヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」(87年)は、それまでの映画に対する私の考えを一変させた一本でした。実は天使がすぐ側でいつも見守っていてくれているかもしれない、そしてそんな守護天使が人間に恋してしまい、地上に舞い降りる、なんていう設定をモノクロ映像をメインに映画的に描き、ドイツ出身のヴェンダース監督の才能を決定づけた傑作です。

ヴェンダース監督が10年ぶりに故国に戻って撮った作品。日本でも単館系作品の興行記録を塗り替えて、ミニシアターブームを牽引しました。天使が人間になった(地上に舞い降りた)瞬間にモノクロ世界がカラーになる表現には鳥肌が立ちましたね。

それからヴェンダースの過去作品「都会のアリス」(73年)、「まわり道」(75年)、「さすらい」(76年)、「アメリカの友人」(77年)などを貪るように観たのですが、中でも私の心を打った作品は、サム・シェパードが脚本を手掛けた「パリ、テキサス」(84年)でした。

自分のもとを去った妻を捜して、テキサス州の町パリを求めて砂漠を彷徨う男。行き倒れてロサンゼルスの自宅に戻された男は、4年前に置き去りにした息子と一緒に妻を捜しに再びテキサスへと旅立つ。男の孤独が乾き切った砂漠の風景とリンクし、男の心象風景を切り取ったような撮影監督ロビー・ミュラーの美しき映像と、ライ・クーダーの哀愁の旋律が、ロード・ムービーの孤高の傑作として昇華しています。

妻をついに探し出すのですが、最初は夫と気づかずに電話越しに語り合う妻との会話は秀逸。男の孤独以上に、妻が抱えていた女としての心の孤独を知った時、男は初めて自分を受け入れることになります。主人公の男トラビスを演じたハリー・ディーン・スタントンの名演はもちろん、妻を演じたナスターシャ・キンスキーの美しさに心奪われ、息子と再会するラストシーンでは、それでも再び一緒には暮らせない現代社会(当時)の家族のあり方が暗喩されていて、心に深く残る作品です。

いま手にしているのは、監督ヴェンダース、脚本シェパードが20年ぶりにタッグを組んだ「アメリカ、家族のいる風景」です。前作が“完璧な体験”だったため、再び組むことに躊躇していたシェパードとヴェンダース監督が、前作を超えるため、何度も意見交換し、3年かけて脚本を完成させた作品です。

一人の男が抱える孤独を通して、血のつながりや家族の意味、失われたものと新たに生まれる愛について描いています。主人公をシェパード自身が演じ、ジェシカ・ラング、サラ・ポーリー、ティム・ロスらが演技派が共演。「パリ、テキサス」への20年後の返答のような作品と言えるでしょう。

自分の存在や生きることの意味を見失いかけている人、一人旅をしようと思っている人などにおススメで、「孤独」について考え直されつつも、家族とは何かに気づかせてくれる作品です。

 

アメリカ、家族のいる風景 [DVD]

2005年/ドイツ=アメリカ/カラー/シネマスコープ/SRD・ドルビーSR/124分
後援:ドイツ連邦共和国大使館
提供:レントラックジャパン、クロックワークス
協力:コムストック オーガニゼーション
配給:クロックワークス

コメントを残す