クリストファー・ノーラン監督の頭の中を読み解く分析本「クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論」は必読の書だ!

「ダークナイト」や「インセプション」などの作品でハリウッドを牽引する映画作家クリストファー・ノーラン作品の分析本「クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論」を読破した。

 

クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論

 

同書は、ノーラン監督に対する日本で初めての分析本となるが、映画監督を読み解く普通の映画本ではない。著者のトッド・マガウアンは、哲学や精神分析の側面からもノーラン監督と作品を考察する。

 

ノーラン監督作品のテーマである「フィクション」や「嘘と真実」を通して、「嘘」がどのように中心的な役割を果たし、我々観客は何に翻弄され、欺かれていくのかを作品を通して読み解いていく。

 

確かに、ノーラン監督作品の構造に改めて着目すると、虚構(嘘、仮想、夢、偽装など)を作り込み、仕掛けを施していることがわかる。そして、その映像と物語の展開の巧みさが、哲学や精神分析理論からも読み解くことができるという視点には納得させられる。

 

学生時代にノーラン監督の出世作「メメント」を初めて観た時の衝撃は今も忘れない。映画というものをこんな風に再構築できるのか、こんな風に観る者を欺きながらも映画的な興奮を与えることができるのかと、目から鱗であった。

 

さらに「ダークナイト」はハリウッド映画の新たな幕開けをつげるような作品であった。コミック=アニメのスーパーヒーローの世界を現実的な世界の中で描き、それまでのヒーロー映画の概念を一変させたといったも過言ではないだろう。

 

バットマンが車の屋根に降りた時の重み(ヘコみ)方ひとつとってもリアルであり、対するジョーカーの狂気には映画的な興奮をせずにはいられないアンチヒーローの登場だった。演じるヒース・レジャーの演技は永遠に映画史に刻み込まれるであろう。

 

続く「インセプション」「ダークナイト ライジング」「インターステラー」で更なる進化を遂げ、常に映画的な表現の可能性を押し広げようとしている。

 

そういったノーラン作品の文脈の中で改めて象徴的であり、最も重要な作品と言えるのが、「プレステージ」であろう。ライバル同士のマジシャンが繰り広げる騙し合いを描いており、虚構(嘘、仮想、夢、偽装など)が中心的なテーマであるノーランの思想や考え、映画との関係を知る上でも非常に興味深い作品である。

 

ノーラン監督本人がどこまで哲学や精神分析を念頭において映画作りをしているのかはまだ定かではないが、こういった側面から全作品を見直してみると、新たな楽しみ方ができる。

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