ソフィア・コッポラ監督「ロスト・イン・トランスレーション」は心の不安や孤独感を和らげてくれるステキな愛の物語

ソフィア・コッポラ監督の「ロスト・イン・トランスレーション」(03年)は大好きな作品の一本です。父親であるフランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザーPARTⅢ」(90年)でマイケル・コルレオーネの娘メアリーを演じたソフィアがまさかこんなステキな映画を監督するようになるとは、やはり血は争えないのですね。

日本の東京という街に仕事でやってきたハリウッド俳優ボブと、カメラマンの夫の仕事にくっついてやってきた若い妻シャーロットが宿泊先のホテルで出会う。違う文化、違う言葉の中で互いに言い知れぬ不安と孤独感に苛まれていた2人が、ただ単に寂しさを紛らわすためではなく、年齢も性別も超えて打ち解けていく心の機微が繊細に描かれる愛の物語です。

ボブにビル・マーレイ、シャーロットにスカーレット・ヨハンソンという絶妙なキャスティングで、中年男と若妻が徐々に心を通わせていく様子がなんとも自然に違和感なく、時にコミカルに、時にエロチックに映し出されていきます。アメリカから日本という違う国に来たから疎外感から不安や孤独感に苛まれますが、この2人は元々同じような思いを心の中に持っていたのだと思います。そんな2人が偶然にも東京のホテルのエレベーターの中ですれ違い、バーで親しくなり、街に出て心を通わせていきます。

自分のパートナーは本当に運命の人なのか。そんな疑念も2人の中にはあったのかもしれません。多くを語らなくても不思議に分かり合える人。数日の間交流するが、一線を越えない関係。別れの時が近づくが、お互いに踏み越えられないまま。ソフィアのとてもパーソナルな感情を描いたようにも見える作品ですが、彼女の類い稀なる感性が観る者の心を掴んで離さない作品です。ラストシーンは、何とも言えない幸福感に包まれます。

音楽も素晴らしく、第1作「ヴァージン・スーサイズ」に続き、ブライアン・レイチェルが音楽プロデューサーを担当。ボブとシャーロットの心を表現するような音楽と、東京の風景が見事にマッチし、日本からははっぴいえんどの「風をあつめて」が選曲されているのも憎い。

第76回アカデミー賞、第61回ゴールデングローブ賞ほか各映画賞で高い評価を得て、ソフィア監督の評価をさらに高めました。父親のコッポラが製作総指揮を担当しているのもいいですね。オール東京ロケを決行し、スタッフの90%が日本人という体制で製作されたそうです。

なんだか他人との関係に上手くいっていないとか、自分の殻を破れずにいるとか、心に孤独を感じている方にオススメしたい作品で、観ると他人と触れ合いたくなると思います。

 

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

2003年/アメリカ/102分/ビスタサイズ/SRD
提供:東北新社、アーティストフィルム、フジテレビジョン
配給:東北新社/宣伝:ファントム・フィルム

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