映画博士マーティン・スコセッシ監督の「シャッター アイランド」は「カッコーの巣の上で」と対比して観ると面白さ倍増

私の映画人生に最も影響を与えた監督のひとりがマーティン・スコセッシ監督で、このブログでは今後何度も触れていくこととなると思います。このブログのタイトルにもなっている「タクシードライバー」(76年)がスコセッシ作品との最初の出会いだったでしょうか。評判は知っていたのですが、ロバート・デ・ニーロが好きで観てみたのだと思います。ニューヨークの通りを覆う煙、そこから出てくるイエローキャブ(タクシー)。リアルでありながら、なんとも幻想的な映画的表現に度肝を抜かれました。

ベトナム帰りのタクシードライバーが、社会に対する鬱憤を募らせ、自分こそがこの汚れた社会を綺麗にできるのだと思い込み、英雄的な行動を起こして殺人を犯すのですが、皮肉なことに汚れた社会では、家出娘を救うこととなった彼が英雄となってしまいます。多人種が生活するニューヨークを舞台に、ベトナム戦争で狂気の世界を見てきた男の孤独が、マイケル・チャップマンの流麗なキャメラワークと、バーナード・ハーマンのジャジーな音楽によって引き立てられます。

スコセッシ作品は宗教的なテーマが根底にあるのですが、私が特に惹かれるのは映画的な技法を駆使しているところです。スコセッシ監督は過去の世界中のあらゆる傑作映画を見た上で映画を撮っており、画面の端々に映画的なオマージュが感じられるのです。もちろんそこにオリジナリティを発揮して自分の作品を生み出しているのが凄いですよね。

いま手にしている映画プレスシートは、2010年製作の「シャッター アイランド」。「ミスティック・リバー」(03年)のデニス・ルヘインの同名小説をレオナルド・ディカプリオ主演で映画化したミステリーです。普通のプレスシートではなく、1950年代を舞台にした作品にあわせて、当時の刑事が事件のレポートをまとめたファイル形式になっています。しかも場面写真が事件の証拠写真のように袋に入れられ、事件の証拠の一つとなるメモが同封されている凝ったプレスシートとなってい、配給宣伝会社の熱い思いが伝わってきます。

精神を患った犯罪者だけを収容する絶海の孤島“シャッターアイランド”で起こった女性患者の失踪事件を調査しに、ディカプリオ演じる連邦捜査官テディがやってくるのですが、不可解な事件が続き、次第に何が真実で、何が真実でないのかわからなくなっていくというストーリー。凄惨な戦争体験と愛妻の死という二重のトラウマを負ったテディの2日間の壮絶な体験をミステリーとして、人間ドラマとしてスコセッシ監督は見事に描いています。次第に追いつめられていくディカプリオの演技も素晴らしいです。

ジャック・ニコルソン主演、ミロス・フォアマン監督の傑作「カッコーの巣の上で」(75年)を想起させる作品でもあり、映画的な謎解きやトリックの面白さを堪能できます。自分の目に見えているものが果たして真実なのか、信じていたものが信じられなくなっていく自分の頭はどうかしてしまったのか、夢か現実か、その境目が曖昧になっていく展開は必見です。スコセッシ作品を観ていくと主人公にはどこか共通したテーマが負わされていることに気づいていくと思いますので、オススメします。

シャッター アイランド&ウルフ・オブ・ウォールストリート ベストバリューBlu−rayセット [期間限定スペシャルプライス] [Blu-ray]
2010年/アメリカ映画/138分
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

コメントを残す