映画監督は世界をどう捉えているのか、世界がどう見えているのか、そんなことが作品からわかるとさらに映画を観る楽しみは増します。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「バベル」を観た時は鳥肌が立ちました。
モロッコ、メキシコ、東京を舞台に、世界規模のスケールで人間の絶望と希望を描いた衝撃のヒューマンドラマです。一発の銃弾によってそれぞれの国の孤独な人間の魂をつなぎあわせるという設定に度肝を抜かれ、ドキュメンタリータッチな演出も物語展開の緊迫感を煽りました。
キャストもブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナルらが出演し、日本から役所広司、菊地凛子、二階堂智が参戦。菊地が第79回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたことでも話題となりました。
神に近づこうとした傲慢によってバラバラにされた人類が、再びひとつにつながるにはどうすればいいのか? 言葉が通じない、心も通じない、想いも届かない、そんな今だからこそ、初めて世界に響く魂の声に耳を傾けて欲しいと監督は説きます。世界はひとつになれるのだろうかと。2006年の作品です。
プレスシートは、横長で光沢のある黒の表紙左隅に「BABEL」とあり、中央にキャスト8人の名前が並び、その下に監督の名前が記されています。全部で30ページ(表紙と裏表紙除く)。最初の方のページに、「神よ、これが天罰か。」とあり、ブリューゲルの「バベルの塔」(1563年)の絵とともに、「遠い昔、言葉は一つだった。神に近づこうと人間たちは天まで届く塔を建てようとした。神は怒り、言われた、“言葉を乱し、世界をバラバラにしよう”。やがてその街は、バベルと呼ばれた。という旧約聖書創世記11章が引用されています。
黒地をベースとしたページ構成で、迫真の表情を見せるブラピとケイト、ベルナル、役所、菊地らの写真とともに、イントロダクション、ストーリー、聖ヶ丘協会牧師・山北宣久氏のコラム、キャスト、監督、スタッフの紹介ページへと続きます。イニャリトゥ監督は、「境界を形成するものは、言語、文化、人種、宗教ではなく、私たちの中にある」とコメントしています。
さらにプロダクションノート、美術史家・森洋子氏によるコラムと続き、抱き合う役所と菊地、悲しみに顔をしかめるブラピの写真が作品の余韻を伝えます。まるで写真集のようでもあるプレスシートで、裏表紙には「LISTEN」とあり、作品世界を反映した作りとなっています。
現在世界中できな臭い事件が起き、政治的なニュースが流れていますが、日本という小さな世界で思い悩むのではなく、視点を世界に向けて、世界の中の自分を再認識することを考えさせられる作品だと思います。
「アモーレス・ペロス」(99年)、「21グラム」(03年)のイニャリトゥ監督が、「バベル」を経て後に「BIUTIFUL ビューティフル」(10年)、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14年)、「レヴェナント 蘇えりし者」(15年)に続いていくと思うと、さらに興味深い観方ができると思います。
2006年/メキシコ/143分/カラー/ビスタ/ドルビーデジタル
提供・配給:ギャガ・コミュニケーションズ
日本公開:2007年4月28日