「Shall we ダンス?」の周防正行監督作品や「ウォーターボーイズ」の矢口史靖監督作品など、多くの良質な娯楽作品を製作してきた映画プロデューサー桝井省志さん編著による本「映画プロデューサー入門」を読んだ。現在の私にとっては学ぶべきことが多く記されており大変参考になるバイブルとなるだろう。と同時に、とても身につまされもした。
過去に取材し、何度も話を聞かせてもらった錚々たるプロデューサーたちが登場する。佐々木史朗さん、岡田裕さんなど、日本のインディペンデント映画制作を駆け抜けてきた諸先輩方の言葉は軽やかのようでいてとても重い。話を聞いていたということもあるが、私の知らないエピソードからも、その言葉の裏では数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろうことが想像できる。
映画産業の荒波に揉まれ、翻弄されながらも制作プロダクションを立ち上げ、メジャー作品とはことなる視点で、プロデューサー主導の作家主義映画を作り続けてきた。ここに登場するプロデューサーたちの境遇はそれぞれ違い、人によっては気がついたら映画プロデューサーになっていたという方もいる。
それでもなぜ映画を作り続けるのか? その答えが本書にはあるような気がする。大きな会社組織に属しているプロデューサーと、独立して自ら会社を立ち上げたプロデューサーの違いとは何か。本書からは「お前は腹を括れるのか?」という明確な問いが突きつけられているようでならない。
企画した映画がヒットする保障はない。ヒットして制作費を回収し、利益が出たとしても手元に入ってくるのは、制作から2年後もしくは3年後だ。それまでどうやって収入を得るのか?企画を開発し、シナリオをあげ、キャストを決めて、制作資金集めに奔走する毎日。スタッフを集め、準備を整え、クランクイン。さらに配給会社を決め、劇場公開をしなければお金は入ってこない。そんなすべての責任を負うのが、独立プロのプロデューサーだ。
しかし、ヒット作を飛ばし、時の人となりながらも消えていったプロデューサーを私は何人も知っている。もちろん復活してきたプロデューサーもいる。映画を作り続けることと会社を経営することをバランス良く続けていくことは容易ではない。それでも作りたい映画を作るには片手間では真の映画プロデューサーにはなり得ない。
若い監督、新しい才能との出会い。企画力、お金集め、人脈に広さ、宣伝力など、プロデューサーとしての強みは何なのか? 映画を作り続けること、映画業界で生き抜いていくことは容易ではない。だからこそ本書に登場するプロデューサーたちの言葉には重みがある。「映画」を愛し、時に血反吐を吐きながらも映画作りを楽しんでいる。変わり者でないと務まらない役回りだ。
もっとビジネスライクに、効率よく、多くの人々が喜ぶ娯楽作を制作すればいいじゃないかという考えもあるだろう。そうしていかなければならない側面も時代の移り変わりとともにあるのも事実だ。であるならば、次の世代であるプロデューサーは時代にあった映画作りと制作資金の回収の仕方、新しい利益の得方を開拓しなければならない。