「エレクション」のジョニー・トー監督が仏映画界と化学反応を起こした「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」の美学に酔いしれる

ジョニー・トー監督の「エレクション」(05年)を初めて観た時は頭を打ち抜かれたような衝撃を受けました。ジャッキー・チェンやジョン・ウー、ツイ・ハーク、そしてウォン・カーウァイらの監督作品を観て育った私にとってジョニー・トー監督との出会いはなぜか遅かったのです。

香港最大の暴力団の会長選挙を背景に、トップを狙う男たちの仁義なき戦いを描いた犯罪群像劇の「エレクション」。それまでのジョン・ウー監督のフィルム・ノワールとはまたひと味違った香港マフィアもので、リアルな中にトー監督の美学を感じさせるものでした。冷静沈着なロクを演じたサイモン・ヤムの殺気だった存在感と、組の稼ぎ頭で選挙に敗れたディーを演じたレオン・カーフェイの格好良さ。「愛人 ラマン」(92年)の頃の美青年からは想像もつかないヤクザを恐ろしいほどの愛嬌で演じている様に痺れました。

それからトー監督作品を観ました。続編の「エレクション 報復」(06年)、「ザ・ミッション 非情の掟」(00年)、「PTU」(03年)、「ブレイキング・ニュース」(04年)、「エグザイル 絆」(06年)など。「ワイルドバンチ」(69年)などの作品でバイオレンスの巨匠として知られるサム・ペキンパーにも匹敵する美学を持ったトー作品は香港映画の概念を変えたと思います。

世界から注目を集めるそんなトー監督がフィルム・ノワールの本場フランス映画界と組んで製作したのが「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」です。ハリウッド映画を超える派手なアクションと銃撃戦、そして哀愁に満ちた男たちの美しき生き様が描かれ、香港ノワールとフレンチ・ノワールが見事に化学反応を起こしています。

惨殺された娘家族の復讐を誓う主人公コステロにフランスの国民的スター、ジョニー・アリディを迎え、彼に雇われる3人組のヒットマンにアンソニー・ウォン、ラム・シュ、ラム・カートンとトー組常連俳優が脇を固めています。もはや芸術の域に達している銃撃戦の激しさと美しさは必見。映画的美学に酔いしれたい方にオススメの作品です。

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を [DVD]
2009年/香港・フランス/108分/シネスコ/ドルビーSRD/R-15+
製作:ARP、メディア・アジア 制作:ミルキーウェイ・イメージ
提供:ファントム・フィルム、アスミック・エース エンタテインメント
配給:ファントム・フィルム

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