小泉今日子の演技に鳥肌が立つ、豊田利晃監督の「空中庭園」は刹那的な傑作

空からナイフの雨が降ってきた時、もの凄い才能が日本映画界に現れたなと実感しました。インディ映画は綿々と作り続けられたいましたが、どこかヌルく、頭ひとつ抜け出てくる才能に出会えずにいました。そんな時、「ポルノスター」(98年)でまさにナイフのような切れ味で豊田利晃監督が出現しました。

ヤクザ狩りをする正体不明の青年とチンピラとの奇妙な交流を描いたストリートムービーで、脚本も豊田監督が手掛けています。演じる千原浩史と鬼丸の存在感と緊張感が絶妙で、今にも殺し合いそうな関係は秀逸でした。何に対するものなのかは明確ではないのですが、千原が内に秘めた「怒り」を体現しています。

観る側も血を流すような痛みを覚える作品ですが、98年当時の時代や空気感を反映していたのだと思います。その鋭い感性がナイフの雨となって振ってきたのです。

そして、豊田監督は02年に傑作青春映画「青い春」を生み出すわけですが、ずっと男性を主人公に描いてきた豊田監督が、初めて女性を描くことに挑戦したのが、「空中庭園」(05年)です。

同作は、直木賞作家・角田光代の第3回婦人公論文芸賞受賞の同名小説が原作です。東京郊外のダンチという現代的な舞台装置において、家族とは、孤独とは、愛とは、といった普遍的なテーマを、原作とはひと味違った豊田監督独自の視点で描き出しました。

主人公の主婦・絵里子を演じた小泉今日子はこの作品の演技によって女優としての実力を決定づけたと言っても過言ではないでしょう。自分で作った家族を自分の手で守ろうとすればするほど家族は崩壊していき、孤独になっていく様が絵里子の笑顔と対比されて恐ろしくなっていきます。

隠し事をしないという家族のルールに固執し、ガーデニングというベランダの空中庭園に一人の世界を作って笑顔を維持していた主婦。コンビニで雑誌を読んでいた絵里子が不意に振り返った時の素の冷めた表情には、女性の本心を垣間みたようで戦慄を覚えるとともに、切ない思いになりました。

家族(子供)とは何か、他人(夫)との愛情とは何か、どんな関係を築いても人間は孤独なのだという刹那的な絶望感がこの作品を傑作にしています。

プレスシートは白地ベースの冊子タイプで、場面写真とともに豊田監督の美学が感じられるバラやタンポポ、チューリップの写真が挿入されていて、センスを感じるものになっています。

まだ豊田作品を観たことない方は、まずは「青い春」を観て、この「空中庭園」、そして「ポルノスター」と観ると面白いかもしれません。新作が待たれる監督のひとりです。

空中庭園 特別初回限定版 [DVD]

 

2005年/1時間54分/ヴィスタサイズ/ドルビーSR
製作:リトルモア、ポニーキャニオン、衛生劇場、朝日放送、カルチュア・パブリッシャーズ、アスミック・エース エンタテインメント
製作プロダクション:フィルムメイカーズ
配給:アスミック・エース

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