ジャ・ジャンクー。世界三大映画祭すべてで受賞を果たしたその名前は、私の中ではすでに伝説化していたので、まさか自分がインタビューする機会に恵まれるとは思いもしませんでした。
第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された「山河ノスタルジア」で16年4月公開を前に来日。初めて生でお会いした監督は、とても小柄で、大勢のスタッフを率いて映画を製作する監督には見えませんでした。インタビューをしてみるとまた、とても物腰が柔らかく、控えめな感じで、質問に対しとても真摯に答えてくれました。
デビュー作「一瞬の夢」(98年)から一貫して、市井の人々の目線に立ち、「中国のいま」を描き続けてきたジャンクー監督。「山河ノスタルジア」は、中国の片隅で、別れた息子を思って独り故郷に暮らす母親と、異国の地で母の面影を探している息子の強い愛を描いたもの。1999年から2025年まで、過去、現在、未来へと変貌する世界と、それでも変わらない市井の人々の思いに迫った壮大な叙事詩です。
ユー・リクウァイが撮影した圧倒的な映像美と、胸を震わせる半野喜弘の哀愁のメロディー、そして、ジャンクー作品のミューズ、チャオ・タオ、リャン・ジンドン、チャン・イー、ドン・ズージェン、シルヴィア・チャンといった実力派俳優たちの存在感が一体となり、観る者を深い感動へ誘います。香港映画を観て育った私などは、シルヴィア・チャンが出て来ただけで涙が止まらなくなりました。
2000年に入るあたりから急速な経済発展を遂げていく一方で、格差は広がり、ある者は故郷を去り、ある者は留まり、次第に家族は離散していき、移民の問題や、異国の地で暮らす次世代はアイデンティティを喪失していきます。
夢や希望を抱けていた90年代後半、ペット・ショップ・ボーイズの「GO WEST」に合わせて若者たちが楽しそうに踊るシーンには胸が熱くなりますし、時代や社会に翻弄された母と息子の別離を経て、異国の地で自分の存在とは何なのかと黄昏れる息子の姿と、ラストシーンで故郷の空き地で雪が舞う中、息子を思いながら静かに踊る母親の姿の過去との対比は、深く心に残ります。
失ってはいけないものの大切さに気づかせてくれる作品です。
2015年/中国=日本=フランス/125分/DCP
提供:バンダイビジュアル、ビタース・エンド、オフィス北野
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野