傑作「パリ、テキサス」から20年、監督ヴィム・ヴェンダースと脚本サム・シェパードが再び組んだ「アメリカ、家族のいる風景」

高校生の時に観たヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」(87年)は、それまでの映画に対する私の考えを一変させた一本でした。実は天使がすぐ側でいつも見守っていてくれているかもしれない、そしてそんな守護天使が人間に恋してしまい、地上に舞い降りる、なんていう設定をモノクロ映像をメインに映画的に描き、ドイツ出身のヴェンダース監督の才能を決定づけた傑作です。

ヴェンダース監督が10年ぶりに故国に戻って撮った作品。日本でも単館系作品の興行記録を塗り替えて、ミニシアターブームを牽引しました。天使が人間になった(地上に舞い降りた)瞬間にモノクロ世界がカラーになる表現には鳥肌が立ちましたね。

それからヴェンダースの過去作品「都会のアリス」(73年)、「まわり道」(75年)、「さすらい」(76年)、「アメリカの友人」(77年)などを貪るように観たのですが、中でも私の心を打った作品は、サム・シェパードが脚本を手掛けた「パリ、テキサス」(84年)でした。

自分のもとを去った妻を捜して、テキサス州の町パリを求めて砂漠を彷徨う男。行き倒れてロサンゼルスの自宅に戻された男は、4年前に置き去りにした息子と一緒に妻を捜しに再びテキサスへと旅立つ。男の孤独が乾き切った砂漠の風景とリンクし、男の心象風景を切り取ったような撮影監督ロビー・ミュラーの美しき映像と、ライ・クーダーの哀愁の旋律が、ロード・ムービーの孤高の傑作として昇華しています。

妻をついに探し出すのですが、最初は夫と気づかずに電話越しに語り合う妻との会話は秀逸。男の孤独以上に、妻が抱えていた女としての心の孤独を知った時、男は初めて自分を受け入れることになります。主人公の男トラビスを演じたハリー・ディーン・スタントンの名演はもちろん、妻を演じたナスターシャ・キンスキーの美しさに心奪われ、息子と再会するラストシーンでは、それでも再び一緒には暮らせない現代社会(当時)の家族のあり方が暗喩されていて、心に深く残る作品です。

いま手にしているのは、監督ヴェンダース、脚本シェパードが20年ぶりにタッグを組んだ「アメリカ、家族のいる風景」です。前作が“完璧な体験”だったため、再び組むことに躊躇していたシェパードとヴェンダース監督が、前作を超えるため、何度も意見交換し、3年かけて脚本を完成させた作品です。

一人の男が抱える孤独を通して、血のつながりや家族の意味、失われたものと新たに生まれる愛について描いています。主人公をシェパード自身が演じ、ジェシカ・ラング、サラ・ポーリー、ティム・ロスらが演技派が共演。「パリ、テキサス」への20年後の返答のような作品と言えるでしょう。

自分の存在や生きることの意味を見失いかけている人、一人旅をしようと思っている人などにおススメで、「孤独」について考え直されつつも、家族とは何かに気づかせてくれる作品です。

 

アメリカ、家族のいる風景 [DVD]

2005年/ドイツ=アメリカ/カラー/シネマスコープ/SRD・ドルビーSR/124分
後援:ドイツ連邦共和国大使館
提供:レントラックジャパン、クロックワークス
協力:コムストック オーガニゼーション
配給:クロックワークス

ナタリー・ポートマンの美しき演技とダーレン・アロノフスキー監督の幻想的な世界が堪能できる「ブラック・スワン」

「レオン」(94年)のあの可愛いお転婆娘が、まさかこれほどまでに美しく、演技派の女優に成長しようとは予想以上だったのではないでしょうか。少女マチルダ役に、オーディションで選ばれた当時12歳のナタリー・ポートマンは、それから17年後に第83回米アカデミー賞で主演女優賞を見事獲得しました。

その作品はダーレン・アロノフスキー監督の心理スリラー「ブラック・スワン」。「白鳥の湖」をモチーフに、禁断の変身願望に魅入られたバレリーナの物語を、純真と官能がせめぎ合う衝撃的な映像世界で表現しています。「レオン」で孤独な殺し屋に生きる目標を与えたナタリーは、「ブラック・スワン」の過酷な役作りで女優としての限界に挑戦し、孤独なバレリーナの極限の真理を見事に体現しました。

プレスシートは、透かしの表紙が付いており、作品世界に合わせ、ブラックとホワイトを基調としたページ組、デザインになっています。劇中の美しい映像のカット写真がふんだんに使用され、写真集としても成立するクオリティになっています。全14ページで、イントロダクション、ストーリーに続き、ナタリー、共演のヴァンサン・カッセル、ミラ・クニスらキャスト、アロノフスキー監督らスタッフが紹介され、貴重なプロダクションノートも掲載されています。

アロノフスキー監督の長編デビュー作、数字に取り憑かれた男の破滅的な運命を描いた不条理スリラーの「π」(97年)、ドラッグを題材にした衝撃的なストーリーの第2作「レクイエム・フォー・ドリーム」(00年)を観た時の驚きは今も鮮明に覚えています。独特なイマジネーション、新しい幻想的な映像表現をもった才能が登場したなと。そして、ミッキー・ロークの復活作となった「レスラー」(08年)では、落ちぶれたプロレスラーの孤独を哀感たっぷりに描き、その確かな演出力を示しました。

そして「ブラック・スワン」では、主人公のバレリーナが新シーズンの「白鳥の湖」のプリマに選ばれたがために、そのプレッシャーと役への入り込みから徐々に「白鳥」と「黒鳥」、「正気」と「狂気」の境目が曖昧になり、精神的に追い込まれていく様を、幻想的で美しい映像と音楽で描き切りました。観ている方も心理的に追い込まれていくような作品でした。

監督の独特な頭の中を観ているような作品であり、次第に精神的バランスを崩していく主人公を演じたナタリーの演技は一見の価値有り。映画的に刺激的な映像表現を堪能したい方や、精神的に不安定な状況にある方に観て欲しい作品です。逆に我にかえるきっかけになる、客観的な視点が得られると思います。

 

ブラック・スワン (デラックスBOX) [DVD]

2010年/カラー作品/シネマスコープ/110分/ドルビーSR・SRD、DTS
配給:20世紀フォックス映画

ジム・ジャームッシュ作品から多大な影響を受ける、「コーヒー&シガレッツ」でちょっと息抜き

ジム・ジャームッシュ、この監督は私の映画人生の中で外せない一人です。というか、相当な影響を受けています。先日、おそらく20年ぶりくらいに「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(84年)をhuluで観直したのですが、やはりいいですね。役者、セリフ、絶妙な間とリズム、キャメラ、モノクロの映像、音楽と、ジャームッシュの独特なオフビートな世界がなんとも格好よくて、今観てもオシャレ。

初めて観始めた時はこのノリで映画として成立するのかと思ったのですが、とんでもない、とても映画的な作品で引き込まれてしまいました。特別何か大きな事件が起きるわけではないのですが、抑制された役者の表情や台詞回し、その行間、時に水墨画のようにも見えるモノクロ映像とセンスのいい音楽の使い方が新しく刺激的でした。80年代当時アメリカの他者との関係、距離感を独特の視点で捉えていたのだと思います。

もちろん「パーマネント・バケーション」(80年)、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」、「ダウン・バイ・ロー」(86年)、「ミステリー・トレイン」(89年)、「ナイト・オン・ザ・プラネット」(91年)は世代的にリアルタイムで観ることは出来ず、90年代に入って本格的に映画について学び始めてからビデオで鑑賞しました。

スクリーンで観たのは「デッドマン」(95年)です。ジョニー・デップを主演に迎えた西部劇で、ロビー・ミューラーのモノクロの映像美と、ジャームッシュの世界観・死生観、ニール・ヤングの即興音楽にしびれました。フォレスト・ウィテカーを主演に迎えた99年の「ゴースト・ドッグ」にもはまりましたね。音楽はウータン・クランのRZAでした。

そして久しぶりに手にしているのは、03年の「コーヒー&シガレッツ」のプレスシートです。カフェを舞台に、コーヒーとタバコについてのリラックス・ムービーで、ジャームッシュでしか撮れない作品でしょう。俳優からミュージシャンまで個性派の面々が出演し、音楽はジャームッシュならではの選曲となっています。ただ、この辺の作品から少し迷走しはじめるのですが…。

プレスシートはほぼ正方形で、モノクロ48ページもあるブックレットタイプで、写真集のようにオシャレです。配給・宣伝会社アスミック・エースのセンスを感じます。映画を観続けることにちょっと疲れてしまったあなた、肩の力を抜いて、コーヒーを飲みながら、タバコを吸いながらリラックスして観て欲しい作品です。

 

コーヒー & シガレッツ (初回限定生産スペシャル・パッケージ版) [DVD]

2003年/アメリカ/スモークスクリーン・インク提供/アスミック・エース=BIMディストリビューション共同提供/35ミリ/97分/ヨーロピアンヴィスタ/モノクロ/ドルビーSRD/サウンドトラック:ビクターエンタテインメント/配給:アスミック・エース

テオ・アンゲロプロス監督の映画的な表現、「エレニの旅」では村が水に沈み、「霧の中の風景」では時が止まる

テオ・アンゲロプロス監督「エレニの旅」(2004年)のパンフレットを手にしています。フランス映画社配給で日比谷のシャンテ・シネで公開された時に販売されたものです。同館で公開されたフランス映画社配給作品のパンフレットは、映画的価値の高い書物と言えます。全38ページ(表紙・裏除く)。映画と同様に読み始めると映画的な旅ができます。

アンゲロプロス監督と言えば、寡作ながらもそのほとんどの作品が映画的傑作と評価されています。今から約20年前、当時大学で映画を学び始めた私にとって、232分という「旅芸人の記録」(1975年)の上映時間は苦痛以外のなにものでもなかったのですが、いざ観はじめると時間のことなど忘れ、まるで劇中の登場人物たちと一緒に映画的な旅をしているようでした。初めての感覚でした。

ハリウッド大作のように映像を消費するのではなく、見つめること。その映画の中に入り込むこと。監督=作家が描く個性的なイマジネーションの世界に浸ること。そして、映画から世界を学ぶことを教えられた気がします。一回観ただけでは理解できません。観て学び、調べてまた観るの繰り返しです。ギリシャの荒涼とした大地に、大きめのカバンを持った旅芸人の一団が佇む引きのショットが、アンゲロプロス作品を象徴しているといえるでしょう。

アンゲロプロス作品の中でも私が特に好きなのは「霧の中の風景」(88年)のワンシーン。父親を探しに旅に出た12歳の少女と5歳の弟が、保護された警察署から外に逃げ出した途端、雪が降り、世界の時間が止まる描写。姉弟以外の世界は時間が止まり、その中を2人は再び進んでいきます。このシーンを観た時、映画っていいなと思いました。その他にも海から吊り上げられる巨大な手、フィルムの切れ端の中に浮かぶ樹木など、痛切に美しい詩のような、映画的な風景が映し出されます。

それから16年、「エレニの旅」はロシア革命で両親を失ったギリシャ難民のエレニの半生を、ギリシャ現代史に重ねて描いた映像叙事詩ですが、なんと村が一つ水の中に沈みます。アンゲロプロス監督作品でしか撮れないシーンだと思います。監督の中、眼差しには常に、安住の地などない難民としての問題があったのだと推測されます。海に囲まれた島国の日本人は、このテーマを突きつけられた時に何を想えばいいのでしょうか。

パンフレットには監督の直筆の言葉、インタビュー、作品解説、スタッフ・キャスト紹介に加え、俳優・佐野史郎さんが作品に寄せた文章、さらにシナリオが採録されており、写真も含め非常に貴重で重厚な内容となっています。

ギリシャの20世紀を描く3部作のうちの第1作で、第2作「エレニの帰郷」は09年に発表されましたが、アンゲロプロス監督は第3作目を撮影中の12年に、アテネ郊外のトンネル内でオートバイにはねられる事故で惜しくも亡くなってしまいました。3部作は未完となっています。享年76歳でした。壮大な映像叙情詩がどのように完結したのか観たかったですね。

映画とは何かを教えてくれた監督の一人です。「エレニの旅」(05年4月公開)のプロモーションで来日された時に取材できたことは、私の中で非常に大きな財産となっています。

 

エレニの旅 [DVD]

2004年/ギリシャ、フランス、イタリア、ドイツ合作、ギリシャ映画/ドルビーSR/2時間50分/
提供:フランス映画社、紀伊国屋書店/配給:フランス映画社 バウシリーズ作品157

ポン・ジュノ監督の最新作「オクジャ okja」は“映画”か“コンテンツ”か!? Netflixオリジナル映画の可能性

ちょっとこの辺でブレイクということで、今回はNetflixで観たポン・ジュノ監督の最新作「オクジャ okja」の感想を率直に述べたいと思います。

ジュノ監督の「殺人の追憶」「母なる証明」は才気を堪能できる傑作で、大好きな韓国映画監督の一人です。しかも今作は大きな動物と少女の絆を描く作品ということで、「グエムル 漢江の怪物」も好きな私はこのためにNetflixの無料体験に申し込みました。

なるべくネタばれしないように書きますが、韓国の山間の家で暮らす少女ミジャと大きな動物が普通に平穏に散歩している冒頭の様子には「映画的」な興奮を覚えます。大きな動物の造形はCGだと思うのですが、違和感なく、本当にそこに生きている動物として成立しているあたりはさすがです。このオクジャをめぐっていろいろなことが巻き起こっていくのがこの作品の物語展開なのですが、やはりシンプルに面白いです。

ただ、「グエムル」を観た時のような衝撃はちょっと弱かったですね。慣れてしまったということもあるかと思いますが、「グエムル」の時の街中に突然怪物が出現して人々を襲っていく描写には興奮したのを覚えています。今回もオクジャが街中を暴走するのですが、それは恐怖ではなく、あくまでも愛らしい大きな動物の暴走にとどまります。優しいオクジャと少女ミジャの友情が、強欲な企業によって脅かされ、そこに動物愛護団体などが絡んで、食の問題や生命とは何かを問いかけます。ただそれも予想通りの展開といってもいいかもしれません。

この作品は、ブラッド・ピットの映画製作会社プランBとジュノ監督が組んで製作したNetflixオリジナル映画ということもシナリオに影響しているのかもしれません。映画的ではあるのですが、どこかテレビ視聴を意識した、どっちつかずの作りになっていたような気がするのです。余談ですが、今作は第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたのにもかかわらず、ネット配信用の「コンテンツ」ということで、「映画」と捉えるべきなのかなど賛否両論を巻き起こしたことはニュースでも大きく取り上げられましたね。

劇場公開が先かネット配信が先かといった議論はしばらく続くと思いますが、これからの時代、正直私は「映画」として監督たちが制作しているのであれば、劇場公開にこだわり続けることは意味がなくなっていくと考えています。劇場と同時配信、もしくはネット配信の後に大きなスクリーンでということで劇場公開されるというケースも増えると思います。要するにこれまでの興行会社(劇場)との慣習をどう変えて、お互いにメリットのある形を見出していくかということではないでしょうか。

ジュノ監督の「スノーピアサー」にも出演したティルダ・スウィントンに加え、ジェイク・ギレンホール、ポール・ダノら豪華キャストの怪演は素晴らしく、作品の娯楽性をより一層高めているのですが、描写やテーマ性が、全体的には角が取れた、丸く収まった作品になってしまっているのが惜しいところでしょうか。この作品を韓国資本だけで制作していたらまた違った作品に仕上がっていたかもしれません。

 

グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション [DVD]

 

とはいえ、ラストシーンはミジャとおじいさんが食事をするシーンで終わるあたりは「グエムル」などに通じるものがあり、ジュノ作品であることに間違いなく、にやりとさせられました。私の中で単にジュノ監督への期待のハードルが高くなってしまっての感想なので、ジュノ作品が好きな方もそうでない方も是非観て欲しい快作です。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の世界の見方がわかる「バベル」

映画監督は世界をどう捉えているのか、世界がどう見えているのか、そんなことが作品からわかるとさらに映画を観る楽しみは増します。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「バベル」を観た時は鳥肌が立ちました。

モロッコ、メキシコ、東京を舞台に、世界規模のスケールで人間の絶望と希望を描いた衝撃のヒューマンドラマです。一発の銃弾によってそれぞれの国の孤独な人間の魂をつなぎあわせるという設定に度肝を抜かれ、ドキュメンタリータッチな演出も物語展開の緊迫感を煽りました。

キャストもブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナルらが出演し、日本から役所広司、菊地凛子、二階堂智が参戦。菊地が第79回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたことでも話題となりました。

神に近づこうとした傲慢によってバラバラにされた人類が、再びひとつにつながるにはどうすればいいのか? 言葉が通じない、心も通じない、想いも届かない、そんな今だからこそ、初めて世界に響く魂の声に耳を傾けて欲しいと監督は説きます。世界はひとつになれるのだろうかと。2006年の作品です。

プレスシートは、横長で光沢のある黒の表紙左隅に「BABEL」とあり、中央にキャスト8人の名前が並び、その下に監督の名前が記されています。全部で30ページ(表紙と裏表紙除く)。最初の方のページに、「神よ、これが天罰か。」とあり、ブリューゲルの「バベルの塔」(1563年)の絵とともに、「遠い昔、言葉は一つだった。神に近づこうと人間たちは天まで届く塔を建てようとした。神は怒り、言われた、“言葉を乱し、世界をバラバラにしよう”。やがてその街は、バベルと呼ばれた。という旧約聖書創世記11章が引用されています。

黒地をベースとしたページ構成で、迫真の表情を見せるブラピとケイト、ベルナル、役所、菊地らの写真とともに、イントロダクション、ストーリー、聖ヶ丘協会牧師・山北宣久氏のコラム、キャスト、監督、スタッフの紹介ページへと続きます。イニャリトゥ監督は、「境界を形成するものは、言語、文化、人種、宗教ではなく、私たちの中にある」とコメントしています。

さらにプロダクションノート、美術史家・森洋子氏によるコラムと続き、抱き合う役所と菊地、悲しみに顔をしかめるブラピの写真が作品の余韻を伝えます。まるで写真集のようでもあるプレスシートで、裏表紙には「LISTEN」とあり、作品世界を反映した作りとなっています。

現在世界中できな臭い事件が起き、政治的なニュースが流れていますが、日本という小さな世界で思い悩むのではなく、視点を世界に向けて、世界の中の自分を再認識することを考えさせられる作品だと思います。

「アモーレス・ペロス」(99年)、「21グラム」(03年)のイニャリトゥ監督が、「バベル」を経て後に「BIUTIFUL ビューティフル」(10年)、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14年)、「レヴェナント 蘇えりし者」(15年)に続いていくと思うと、さらに興味深い観方ができると思います。

 

バベル [Blu-ray]

2006年/メキシコ/143分/カラー/ビスタ/ドルビーデジタル
提供・配給:ギャガ・コミュニケーションズ
日本公開:2007年4月28日

ダニエル・デイ=ルイスの魂の名演、ポール・トーマス・アンダーソン監督の才気ほとばしる傑作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

3本目は、10年前に観た衝撃を今も変わらず覚えている、ポール・トーマス・アンダーソン監督の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」です。観るほどに、胸が締め付けられるような苦しさを味わう映画ですが、主人公を演じたダニエル・デイ=ルイスの狂気を通り越した怪演は胸を打つものがあり、一見の価値有り。映画史に刻まれる恐ろしい男が生み出されました。

2007年の作品で、第80回アカデミー賞で主演男優賞と撮影賞を受賞したほか、数々の賞を総なめに。共演のポール・ダノをはじめとしたキャスト、撮影、音楽、編集、美術、音響などスタッフ、そのすべてが素晴らしく、救いようのない話なのに、観た後に深く残る感動はいったい何なのでしょう。今も上手く言葉で表現ができませんが、映画的なカタルシスを得られる鮮烈なる大河ドラマです。

プレスシートの表紙や各ページは黒をベースとしており、表紙はわざと擦れた感じで、味のある書体の英語で監督名、タイトル、ルイスの名前が記されています。全部で18ページ(表紙と裏表紙は除く)の横長で、縦にめくる作りとなっていて、表紙をめくると1ページ目には「本年度アカデミー賞最多8部門ノミネート!」(受賞前のため)と、ゴールデングローブ賞ほか受賞した各映画賞がページいっぱいに羅列されています。

2ページ目には、教会の十字架の下に跪くルイスと彼の頭に手を置く牧師役を演じたダノの写真の上に、米各紙の評価やコメントが並んでいます。3ページ目はルイスのアップの写真で、4ページ目がイントロダクションが記されています。5ページ目と6ページ目がストーリーで、7ページ目と8ページ目はプロダクション・ノートとなっており、製作や撮影時の貴重な話が載っています。

9ページ目は、原作(アプトン・シンクレアの小説「石油!」1927年)の解説で、10ページ目には、レディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドについて解説されています。不協和音を表現する彼のギターのノイズは、この映画にはなくてはならない要素で、是非聴いて欲しい!

11ページから14ページまではキャスト紹介で、15ページ目がアンダーソン監督、16ページ目が主要スタッフの紹介となっています。17ページは時代を感じさせるセピア調のルイスと息子(役)の写真で、片隅に「欲望という名の黒い血が、彼を《怪物》に変えていく…。」という一文が配されています。そして、最後はクレジット。作品世界から抜け出てきたような味わいのあるプレスシートになっています。

人生に行き詰まっている、悩みを抱えている方にこそ観て欲しい作品で、人生の一本になるかもしれません。2時間38分、どっぷり作品世界に浸ってください!

 

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [Blu-ray]

2007年/アメリカ映画/ドルビーSRD/シネマスコープサイズ/2時間38分/PG-12/
提供:ミラマックス・フィスムズ AND パラマウント・ヴィンテージ
オリジナル・サウンドトラックCD:ワーナーミュージック・ジャパン
配給:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン
日本公開:2008年4月26日

クリストファー・ノーラン監督の革新的リワインド・ムービー「メメント」は“記憶”の映画だ

 2本目は「メメント」。何年ぶりにこのプレスシートを手に取ったのでしょうか。製作年は2000年、日本公開は01年11月3日です。この映画を初めて観た時の衝撃は今も良く覚えています。今やハリウッドの大ヒットメーカー、巨匠のひとりと言えるクリストファー・ノーラン監督の第2作。

白地に英語で「MEMENTO」とタイトルが記され、記憶が薄れていくように、その字体がパズルがバラバラになっていくようなデザインになっていて、くしゃくしゃになったポラロイド写真が一枚配置されて作品世界を表現しています。全部で18ページ(表紙と裏表紙は除く)。

愛する妻がレイプされた後に殺され、そのショックで前向性健忘という記憶障害になってしまった男が主人公で、なんと10分しか記憶が保てないということから、ポラロイド写真にメモを書き、体中に暗号のようなタトゥーを掘りながら犯人を探すという設定には、当時度肝を抜かれました。

しかも主人公の男レナードを「L.A.コンフィデンシャル」(97年)のガイ・ピアースが演じ、「マトリックス」(99年)のキャリー=アン・モスとジョー・パトリアーノ、スティーブン・トボロウスキーが共演という、今となればインディペンデント作品とは思えないキャスティング。

「パルプ・フィクション」(94年)、「ユージュアル・サスペクツ」(95年)、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(99年)など、新しい時代を切り開いてきたインディ映画を超える、ニューメディア世代のオリジナル作品として絶賛されました。何度でも繰返し観たくなる映画として評判となり、上映10週目にして全米興行成績で8位にランキングされるという異例のヒットを記録。ちなみに、「リワインド」とは録音テープなどの巻き戻しのことです。

一回観ただけでは理解できず、何度も観たくなるというこの映画の新しい力には、ノーラン監督の才能を感じずにはいられません。しかも格好いい。「memento」とは思い出、記念品、形見、気づかせるものといった意味があり、「memento mori」(ラテン語)は死の警告の意味というのもまた深い。

表紙裏の1ページ目には、劇中シーンをはめ込んだ4枚のポラロイド写真が配置され、2ページ目は一転して作品世界のように黒地に。3ページ目はイントロダクションで、4ページ目には全米紙、映画誌のレビューが掲載されています。

5ページ目から6ページかけて再びポラロイド写真が配置され、7から8ページはストーリーが掲載。9ページから10ページは三度目のポラロイド写真で、映画を思い出させてくれます。11ページは貴重なイントロダクション、12ページ目はノーラン監督へのインタビューが掲載されています。

さらに13ページ目からは白地に戻り、印象的なシーンのポラロイド写真が4枚レイアウトされ、14ページには評論家・布施英利氏の評論「記憶喪失の世界を疑似体験できる映画」が掲載されています。15ページはキャスト、16ページがスタッフ紹介となっていて、17ページ目はクレジット。映画と同様にこだわりを感じるプレスシートとなっています。

ノーラン監督作品は「記憶」がキーワードとなっており、映画装置と「記憶」の密接な関係を見事に描いています。「メメント」が久しぶりに観たくなりました。魂を揺さぶる、映画的な刺激が欲しい方におススメです。

 

メメント コレクターズ・セット [DVD]

2000年/アメリカ映画/カラー・モノクロ/113分/シネスコ/SDR
提供:東芝、アミューズピクチャーズ
配給:アミューズ・ピクチャーズ
日本公開:2001年11月3日

ウォン・カーウァイ監督初の英語映画「マイ・ブルーベリー・ナイツ」は極上のスイーツのようなラブストーリー

さて記念すべき一本目、何にしようかと本棚からあれやこれやと引っ張り出していたのですが、キラキラ輝くブルーベリー色の下地に白い英語文字がオシャレな表紙の「マイ・ブルーベリー・ナイツ」プレスシートが、久しぶりに手に飛び込んできました。

私の大好きな監督の一人、ウォン・カーウァイ監督が香港からアメリカに舞台を移して、豪華なオールスター・キャストで描いた初の英語映画です。ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、レイチェル・ワイズ、デイヴィッド・ストラザーンというキャスティングにはしびれました。第60回カンヌ国際映画祭のオープニングを飾りました。

「欲望の翼」(90年)、「恋する惑星」(94年)、「天使の涙」(95年)、「ブエノスアイレス」(97年)といったウォン監督の作品は、私の映画人生に多大な影響を与えています。ブルース・リーやジャッキー・チェンの香港映画を観て育った私にとっては、ウォン・カーウァイ作品の登場は衝撃的でした。

「恋する惑星」でフェイ・ウォン演じる店員が、ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」に合わせて歌い踊っているところに、トニー・レオン演じる警官が買いにくるシーンは何度観ても鳥肌が立ちますね。

香港の猥雑とした街中を彷徨い、疾走する男女の愛の物語をスタイリッシュな映像と粋な音楽で描いてきたウォン監督が、アメリカを舞台に英語で愛の物語を撮るとどうなるのか、期待は高まるばかりでしたが、なるほどこうくるか!と、最初に観た時にとてもニヤけてしまったのを覚えています。

物語の舞台は変われど、役者がアジア人から欧米人になろうと、ウォン監督が描き続ける「彷徨える愛」は変わらないのですね。広大なアメリカ、一流キャスト、カラフルで滑らかな映像、そして愛の物語にぴったりな音楽に心酔し、目眩を覚える作品です。

プレスシートは、ブルーベリー色をベースに各ページカラフルな構成となっています。通常のパンフレットとは違い横長で、スクリーンのスコープサイズをイメージしたようです。全部で26ページ(表紙と裏表紙除く)。

表紙裏の2ページ目は、ヒロインのノラ・ジョーンズがカフェでブルーベリーパイを食べながら物憂げな表情をしているカット。
3ページ〜4ページがイントロダクションで、ブルーベリーパイのアップ写真が配され、食べたくなります。
5ページ目は、ジュード・ロウがカフェで電話しているカット。
6ページ目はストーリー説明で、レストランの前に佇むノラのショットです。
7ページ〜11ページまでは主要キャストの紹介で、ステキな写真が使用されています。
12ページはロウとノラがカフェのカウンターで話しているところ、13ページ〜14ページは車横に立つノラとナタリーのショットとなります。
15ページ〜16ページは監督の紹介で、広大なアメリカの大地をバックに、撮影機材横で佇むウォン監督のショットがなんともいい感じです。
17ページ〜18ページは、カンヌ国際映画祭での記者会見のコメントが掲載されていて、19ページ〜21ページは撮影の裏話などを語ったプロダクションノートとなっていて貴重です。。22ページはドライブするノラとナタリーのショットでいい写真です。
23ページはスタッフ紹介、24ページはオリジナルサウンドトラック紹介で、ノラの歌声とライ・クーダーの旋律が聴こえてくるようです。
そして、25ページ目はラストシーン、カフェのカウンターで眠ってしまったノラに、ロウがそっと口づけしているカットとなっていて、まるで映画のような構成となっています。配給・宣伝会社の作品への愛を感じずにはいられません。最後はクレジットです。

いかがでしたか? プレスシートをめくりながら思い出の映画を久しぶりに振り返ってみましたが、やっぱり映画が観たくなりますね。日常の生活にちょっと疲れた方に観て欲しい作品です。

また夢で合いましょう!

 

マイ・ブルーベリー・ナイツポスタードイツ27 x 40 JUDE LAW Norah Jonesデヴィッド・ストラザーン Unframed 445328
2007年フランス=香港 ストォーディオ・キャナル提供 ブロック2ピクチャーズ制作 カラー 1時間35分 スコープサイズ ドルビーSRD
提供:アスミック・エース エンタテインメント、フジテレビジョン
配給:アスミック・エース
日本公開:2008年3月22日

ryuseiwadaのおススメ映画ブログサイトについて

こんにちは。映画記者でプロデューサーでもあるryuseiwadaが運営する、映画回顧(感想)ブログサイトです。

 

本棚にコレクションされた映画プレスシートまたはパンフレットをもとに、その作品についての思い出や感想、プレスシートのデザインや構成などについておもむくままに書き連ねていきたいと思います。

 

まるでニューヨークの街中をイエローキャブで流すように、その日の気分で手に取った映画プレスシート(パンフレット)をめくりながら映画への想いを皆さんと共有できれば幸いです。ネタバレもあると思いますので、各記事で取り上げる作品を未見の方は、お気をつけ下さい。

 

そして時々、取材のレポートや映画製作の裏側、映画業界の最新事情、新作映画の感想、映画関連書籍などについてもつづりつつ、たまにその他のエンタテインメントな話題も書いていければと思います。

 

コレクションした映画プレスシート(パンフレット)を、老後に一人で読み返しながら映画に浸り楽しもうと思っていたのですが、恐らくそんな暇はないだろう(笑)ということで、今からここに記録していくものです。肩の力を抜いてお気軽にお付き合いください。

 

それでは私がタクシードライバーを務めるイエローキャブにご乗車いただき、一緒に映画のドライブしましょう。ステキなロードムービーになるように運転していきますので、「観てみたいな」と思っていただけたら幸いです。宜しくお願いします。

 

タクシードライバー 製作35周年記念 HDデジタル・リマスター版 ブルーレイ・コレクターズ・エディション 【初回生産限定】 [Blu-ray]