セルジオ・レオーネ監督、ロバート・デ・ニーロ主演「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」は映画の魔法が詰まったノスタルジックな傑作

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」。昔々、アメリカで…。
セルジオ・レオーネ監督によるこの作品は、私が映画の道を歩むことを決定付けた一本です。ノスタルジー、バイオレンスとエロス、友情と愛、ノワール、記憶…、その極めて映画的な映像とドラマ、俳優陣、衣裳と美術、そしてエンニオ・モリコーネの音楽など、すべてが「映画」であると、当時中学生の私の頭を撃ち抜きました。

初めて観たのはテレビ朝日の日曜洋画劇場だったでしょうか。亡くなった映画評論家・淀川長治さんがあの独特なしゃべり口で解説していたのを思い出します。当時まだ映画の系譜についてよくわかっていなかった私は、ロバート・デ・ニーロが出演しているということで観たのだと思います。しかし、今思えばよくこの作品を地上波で放送したなと思いますね。

私は1920年代のマンハッタン・ロウアー・イースト・サイドを再現したウィリアムバーグ橋を背景に、幼少期の主人公たちが笛を奏でながら歩くシーンを観た瞬間に、この映画の世界に取り込まれてしまいました。当時のマンハッタンを知るわけがないのに、なぜか懐かしい風景だと感じ、こんな風に当時を再現してしまう映画の力に圧倒されました。

20世紀初頭にユダヤ人移民によって作られた結社「モッブス」の男たちの盛衰をバイオレンスとともに描いてはいるのですが、仲間との友情と裏切り、友だちの妹への淡い恋と失恋、切ない思い出などがノスタルジックに描かれた大人の寓話です。

レオーネ監督は、「ギャングスターに思いを馳せる人たちのために作った。現代文明の根幹をなす“犯罪の中における人間性と暴力”が最大のテーマになっている。語りたいすべてを語ったつもりだ」と語っています。「荒野の用心棒」(64年)といった、ハリウッド製西部劇に挑むかのような壮絶なバイオレンスのマカロニ・ウェスタンで名声を得たレオーネ監督の「青春のオマージュ」です。

店裏の物置部屋でバレエを踊るジェニファー・コネリー演じるデモラに恋をし、それを覗き見る少年ヌードルスの目が少女と合って一瞬隠れて戻った時には大人になったデ・ニーロになっていたり、裏切られたヌードルスが駅のロビーにある鏡を覗いた次の瞬間に年老いたデ・ニーロになっているというこの映画的なマジックには痺れます。しかも名曲「イエスタデイ」が流れます。

デ・ニーロはもちろん、親友マックスを演じたジェームズ・ウッズ、デボラの少女時代を演じたジェニファーと成人したデボラを演じたエリザベス・マクガバン、トリート・ウィリアムズ、チューズデイ・ウェルド、バート・ヤング、ジョー・ペッシ、ウィリアム・フォーサイス、ジェームズ・ヘイデン、ダーラン・フリューゲルという素晴らしいキャストが名演を見せています。

プレスシートは、当時わざわざ通信販売で購入しました。中に透かしページがある豪華な作りで、場面写真も素晴らしく、写真集を超えた、一生手元に残しておきたいプレスシートです。「映画とは何か」を思い出させてくれる傑作です。映画に興味を持った方は是非見て欲しい映画です。

 

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ エクステンデッド版(初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]

 

1984年/アメリカ映画/205分/カラー
提供:東宝東和

ジョン・ウー監督の映画美学、壮大な感動ドラマとスペクタクルを堪能できる「レッドクリフ」2部作

ジョン・ウーと言えば「男たちの挽歌」(86年)ですが、そのウー監督の集大成と言える作品は2部作の「レッドクリフ PartⅠ」(08年)、「レッドクリフ PartⅡ 未来への最終決戦」(09年)ですね。ウー監督版三国志のこの2部作は世界各国で記録的な大ヒットとなりました。

構想18年、総製作費100億円、そのうち10億円の私財をウー監督自ら投じたという渾身のビッグ・プロジェクト。エキストラとして召集された現役人民軍兵士はなんと1000人以上、騎馬隊のために用意された馬は200頭で、VFXは「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのスタッフによって1000カ所以上施されたという破格のスケールのスペクタクル巨編です。

キャストもトニー・レオン、金城武、チャン・フォンイー、チャン・チェン、ヴィッキー・チャオ、フー・ジュン、リン・チーリンなど、アジアを代表するビッグスターたちが豪華共演しました。

アクションとドラマ、俳優、技術力が見事に融合し、ラストの赤壁(レッドクリフ)の戦いは圧巻の迫力です。アクションに偏ってしまうのではなく、そこにしっかりと感動のドラマが描かれているのがウー監督作品の真骨頂。まさにウー監督の全てをかけた映画。

しかも中国国内だけに向けた作品ではなく、「勇気」「友情」そいて「愛」をテーマに、世界中の映画ファンが堪能できるアドベンチャー大作に仕上がっており、ハリウッドを超えた作品と言っても過言ではないでしょう。ウー監督は、度々日本映画の影響を受けていると語っていますが、今回も黒澤明監督の傑作「七人の侍」を参考にしていると明かしています。

「男たちの挽歌」の斬新で独特な映像美は“香港ノワール”と称され、香港映画の新しいジャンルを確立し、世界をあっと言わせ、その才能と成功を引っさげて「ハード・ターゲット」(93年)でハリウッド・デビューを飾りました。続く「ブロークン・アロー」(96年)を大ヒットさせ、「フェイス・オフ」で世界的な成功を得ます。そして、「M:I-2」(00年)は世界中で約660億円もの興収を記録しました。そんなウー監督が久しぶりに中国に戻って手掛けたのがこの「レッドクリフ」2部作なのです。

アクションとドラマが融合したアジア映画の底力を堪能できる作品で、この作品が世界で大ヒットしたことは大変意味のあることだと思います。描き尽くされた感のある三国志の物語を、ウー監督独特な映画美学で描き切り、映画の素晴らしさを堪能できる作品です。

 

レッドクリフ Part I & II ブルーレイ ツインパック [Blu-ray]

 

2008年・2009年/アメリカ、中国、日本、台湾、韓国/35ミリ/145分・144分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル
提供:エイベックス・エンタテインメント、東宝東和、テレビ朝日、Yahho!JAPAN、朝日放送、メ〜テレ、北海道テレビ、九州朝日放送、新潟テレビ21
配給:東宝東和、エイベックス・エンタテインメント

母親や故郷への愛が詰まったジャ・ジャンクー監督の「山河ノスタルジア」、大切なものに気づかせてくれる叙事詩

ジャ・ジャンクー。世界三大映画祭すべてで受賞を果たしたその名前は、私の中ではすでに伝説化していたので、まさか自分がインタビューする機会に恵まれるとは思いもしませんでした。

第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された「山河ノスタルジア」で16年4月公開を前に来日。初めて生でお会いした監督は、とても小柄で、大勢のスタッフを率いて映画を製作する監督には見えませんでした。インタビューをしてみるとまた、とても物腰が柔らかく、控えめな感じで、質問に対しとても真摯に答えてくれました。

 

山河ノスタルジア [DVD]

 

デビュー作「一瞬の夢」(98年)から一貫して、市井の人々の目線に立ち、「中国のいま」を描き続けてきたジャンクー監督。「山河ノスタルジア」は、中国の片隅で、別れた息子を思って独り故郷に暮らす母親と、異国の地で母の面影を探している息子の強い愛を描いたもの。1999年から2025年まで、過去、現在、未来へと変貌する世界と、それでも変わらない市井の人々の思いに迫った壮大な叙事詩です。

ユー・リクウァイが撮影した圧倒的な映像美と、胸を震わせる半野喜弘の哀愁のメロディー、そして、ジャンクー作品のミューズ、チャオ・タオ、リャン・ジンドン、チャン・イー、ドン・ズージェン、シルヴィア・チャンといった実力派俳優たちの存在感が一体となり、観る者を深い感動へ誘います。香港映画を観て育った私などは、シルヴィア・チャンが出て来ただけで涙が止まらなくなりました。

2000年に入るあたりから急速な経済発展を遂げていく一方で、格差は広がり、ある者は故郷を去り、ある者は留まり、次第に家族は離散していき、移民の問題や、異国の地で暮らす次世代はアイデンティティを喪失していきます。

夢や希望を抱けていた90年代後半、ペット・ショップ・ボーイズの「GO WEST」に合わせて若者たちが楽しそうに踊るシーンには胸が熱くなりますし、時代や社会に翻弄された母と息子の別離を経て、異国の地で自分の存在とは何なのかと黄昏れる息子の姿と、ラストシーンで故郷の空き地で雪が舞う中、息子を思いながら静かに踊る母親の姿の過去との対比は、深く心に残ります。

失ってはいけないものの大切さに気づかせてくれる作品です。


2015年/中国=日本=フランス/125分/DCP
提供:バンダイビジュアル、ビタース・エンド、オフィス北野
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野

映画愛に溢れたデイミアン・チャゼル監督の「ラ・ラ・ランド」、ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの掛け合いもステキな傑作ミュージカル

ちょっとここで取り上げるには早い作品かもしれませんが、8月2日にDVDが発売されるということで、「ラ・ラ・ランド」について書きたいと思います。説明するまでもありませんが、本年度アカデミー賞で最多6部門受賞、ゴールデン・グローブ賞歴代最多7部門受賞の傑作です。

もちろん、賞を獲っているから傑作ということではありません。この映画を観た時、「ああ、やっぱり映画っていいな」「夢を追い求めるっていいな」「女性を愛するっていいな」と思いました。ミュージカル仕立てで、映画でしかできない表現、素晴らしい音楽とダンス、そしてライアン・ゴズリング、エマ・ストーンという魅力的なキャストによる映画的なラブストーリー。

冒頭のワンシーンワンカット(実際にはわからないようにカットを割っているらしい)による圧巻のミュージカルシーンから一気に作品世界に引きずり込まれてしまいます。夢の街ロサンゼルスで好きなジャズを思い切り演奏できる店を出したいピアニストの男と、映画スタジオ内のカフェで働きながら女優を夢見る女が出会うという、ある意味古典的な設定ではあるのですが、「セッション」(14年)で高い評価得たデイミアン・チャゼル監督は、そんな話を魅惑的に描き出します。

日本人にとっては違和感のある突然のミュージカルシーンも、見事にドラマの中に融合させ、人生とはまさに歌とダンスだと思ってしまうほどの効果を発揮しています。色使いもカラフルで、往年のミュージカル映画やラブストーリー映画にオマージュを捧げた作り方も映画ファンには堪りません。

愛する女性のために夢を諦めようとする男と、男の夢を支えようとしつつも自分の夢を諦め切れない女。次第に2人はすれ違い、一方が夢を実現させていく。数年後に再会した2人の選択は、果たして正しかったのか…。ラストの2人が交わす視線にはニヤリとさせられます。

プレスシートは、表紙がピアノの鍵盤がデザインされていてパステルな配色がオシャレ。ページをめくるとイントロダクションやストーリーが五線譜の紙の上に書かれていて作品世界を反映した凝った作りとなっています。場面写真もふんだんに掲載されていて、劇中の歌の歌詞の訳やロケーションマップが付いているのも心憎い配慮です。

愛する人と出会った時、世界は美しい色を増し、そして夢に向かって自分を解き放った時、自分のイマジネーションや才能が世界を変えられるのだと思わせてくれる作品です。サントラの各曲が耳から離れなくなる、映画愛に満ちたこの映画をブルーレイ&DVDで観直したいと思います。

 

ラ・ラ・ランド コレクターズ・エディション スチールブック仕様(初回限定生産)(2枚組) [Blu-ray]

 

2016年/アメリカ/128分/カラー/シネスコ/5.1ch/デジタル
提供:ポニーキャニオン、ギャガ
配給:ギャガ、ポニーキャニオン

小泉今日子の演技に鳥肌が立つ、豊田利晃監督の「空中庭園」は刹那的な傑作

空からナイフの雨が降ってきた時、もの凄い才能が日本映画界に現れたなと実感しました。インディ映画は綿々と作り続けられたいましたが、どこかヌルく、頭ひとつ抜け出てくる才能に出会えずにいました。そんな時、「ポルノスター」(98年)でまさにナイフのような切れ味で豊田利晃監督が出現しました。

ヤクザ狩りをする正体不明の青年とチンピラとの奇妙な交流を描いたストリートムービーで、脚本も豊田監督が手掛けています。演じる千原浩史と鬼丸の存在感と緊張感が絶妙で、今にも殺し合いそうな関係は秀逸でした。何に対するものなのかは明確ではないのですが、千原が内に秘めた「怒り」を体現しています。

観る側も血を流すような痛みを覚える作品ですが、98年当時の時代や空気感を反映していたのだと思います。その鋭い感性がナイフの雨となって振ってきたのです。

そして、豊田監督は02年に傑作青春映画「青い春」を生み出すわけですが、ずっと男性を主人公に描いてきた豊田監督が、初めて女性を描くことに挑戦したのが、「空中庭園」(05年)です。

同作は、直木賞作家・角田光代の第3回婦人公論文芸賞受賞の同名小説が原作です。東京郊外のダンチという現代的な舞台装置において、家族とは、孤独とは、愛とは、といった普遍的なテーマを、原作とはひと味違った豊田監督独自の視点で描き出しました。

主人公の主婦・絵里子を演じた小泉今日子はこの作品の演技によって女優としての実力を決定づけたと言っても過言ではないでしょう。自分で作った家族を自分の手で守ろうとすればするほど家族は崩壊していき、孤独になっていく様が絵里子の笑顔と対比されて恐ろしくなっていきます。

隠し事をしないという家族のルールに固執し、ガーデニングというベランダの空中庭園に一人の世界を作って笑顔を維持していた主婦。コンビニで雑誌を読んでいた絵里子が不意に振り返った時の素の冷めた表情には、女性の本心を垣間みたようで戦慄を覚えるとともに、切ない思いになりました。

家族(子供)とは何か、他人(夫)との愛情とは何か、どんな関係を築いても人間は孤独なのだという刹那的な絶望感がこの作品を傑作にしています。

プレスシートは白地ベースの冊子タイプで、場面写真とともに豊田監督の美学が感じられるバラやタンポポ、チューリップの写真が挿入されていて、センスを感じるものになっています。

まだ豊田作品を観たことない方は、まずは「青い春」を観て、この「空中庭園」、そして「ポルノスター」と観ると面白いかもしれません。新作が待たれる監督のひとりです。

空中庭園 特別初回限定版 [DVD]

 

2005年/1時間54分/ヴィスタサイズ/ドルビーSR
製作:リトルモア、ポニーキャニオン、衛生劇場、朝日放送、カルチュア・パブリッシャーズ、アスミック・エース エンタテインメント
製作プロダクション:フィルムメイカーズ
配給:アスミック・エース

ティム・バートン監督独自のイマジネーションで実現した摩訶不思議なファンタジー世界「アリス・イン・ワンダーランド」に迷い込んでみては?

ルイス・キャロルの小説「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」が実写映画化されたら面白いだろうなと、漠然と夢想していた中高生の頃(80年代後半〜90年代前半)。それから約20年後にハリウッドで映画化されると聞いて心躍り、監督がティム・バートンと知って期待はさらに高まりました。

アリスのその後の冒険を描いた「アリス・イン・ワンダーランド」(2010年)はその期待を裏切らない作品です。オリジナル・ストーリーの本作は摩訶不思議な世界へ我々を誘ってくれます。

 

アリス・イン・ワンダーランド MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー(クラウド対応)+MovieNEXワールド] [Blu-ray]

 

実写映像とモーション・キャプチャーの融合により、バートンの奇想天外なイマジネーションとアリスの世界が見事に映像化されています。「世界はもう、マトモではいられない…。」というコピーがなんとも素晴らしい。

19歳になったアリスが、白うさぎを追いかけて穴に落ち、アンダーランドと呼ばれるワンダーランドに迷い込んでから、まるで観ている我々もワンダーランドに迷い込んだ錯覚に陥ります。白うさぎの他に、トウィードルダムとトウィードルディー、チェシャ猫、ハートの女王など、お馴染みのキャラクターたちがさらに狂気を帯びて動き回る様に拍手したくなります。

キャストも素晴らしいですね。アリスを演じたミア・ワシコウスカ、マッドハッターのジョニー・デップ、赤の女王のヘレナ・ボナム=カーター、白の女王のアン・ハサウェイなど。アリスを待ち受けていた元帽子職人のマッドハッターのいっちゃってる感はデップにしか演じられないし、異常に頭の大きい赤の女王を演じたヘレナの暴君ぶりは最高です。

夢で観たら恐らくうなされるであろう世界で、ファンタジーでありながらどこか歪んだ狂気を帯びているのがバートン作品の真骨頂です。私がバートン作品の中で一番好きなのが「シザーハンズ」(90年)です。人造人間エドワードが主人公の切ないファンタジーで、フランケンシュタイン的な古典的なストーリーをバートン流にアレンジし、人々からの差別と、愛する人を抱きしめたいのに抱きしめられない切ない思いが観る者の胸を熱くさせる傑作です。この時、エドワードを演じたのがバートンとずっとコンビを組んでいるデップですね。

バートンは、善悪が混在するような世界観と独特の美的感性、摩訶不思議な世界を鋭い映像で表現できる他にはいない監督です。「アリス」でも撮影のダリウス・ウォルスキー、視覚効果のケン・ラルストン、衣裳デザインのコリーン・アトウッド、音楽のダニー・エルフマンなどの才能が、ディズニー・スタジオとともにバートンの世界を実現させました。

プレスシートは、マッドハッターのグリーンが表紙で、中身はワンダーランドのビジュアルやキャラクターが満載。白の世界と赤の世界にわかれ、メインキャラクターを説明し、「アリス」に関する深い情報や製作裏話(プロダクション・ノート)が掲載されています。

映画でしか表現できない世界、ちょっとおかしいバートンとデップの世界を味わいたい方にオススメです。本当に自分がアンダーランドに迷い込んだらと夢想しただけでぞくっとしますね。


提供:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ
ロス・フィルムズ、ザナック・カンパニー、チームトッド プロダクション
2010年/アメリカ映画/カラー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ・ジャパン

ファン・ジョンミンの切なさに涙し、ハン・ヘジンの美しさに酔いしれる「傷だらけのふたり」は犠牲愛を描いたメロドラマ

週末、韓国映画の「傷だらけのふたり」(ハン・ドンウク監督)をNetflixで観ました。ファン・ジョンミンは大好きな役者で、本作でのジョンミンも素晴らしかったです。粗野でありながら心優しい、人情に厚い一面を持つ男を演じさせたら右に出る役者はいませんね。

同作は、借金取りの粗野な男が、借金を回収に行った先で、生きる世界の異なる女性と出会い一目惚れし、彼女のために人生を見つめ直していこうとする姿を描いたドラマです。

2014年の作品で、日本公開は15年4月です。セカンドバッグを持ったヤクザのような威圧的な格好をした男と、OLの制服を来た女性が町の通りを微妙な距離感で歩いている瞬間を捉えたメインビジュアルを観た時にこれは好みの作品だと直感的にピンときていたのですが、劇場での鑑賞のタイミングを逃していた次第です。

ヒロインはハン・ヘジンで綺麗な女優さんです。ジョンミン演じるテイルが借金を回収に病院へ駆けつけたところ、その男はすでに昏睡状態で、そこで看病をしていたへジン演じる娘のホジョンと出会います。最初の出会いは最悪なのですが、テイルがホジョンを一目見た時の表情が秀逸です。

借金を帳消しにする代わりに、自分と何度かデートするという契約を結ぶ卑怯な申し出で始まるのですが、不器用なテイルは何度もホジョンに拒絶されるながらも、あることをきっかけに次第に2人は心を通わせていきます。そして、幸せになれるかと思った矢先にテイルにあることが判明します。

この先の詳しい展開は控えますが、ホジョンのために生き直そうとしながらもすれ違い、彼女の幸せを願うテイルの犠牲愛に涙がこぼれます。

最近も「哭声 コクソン」(16年)、「アシュラ」(16年)、「ベテラン」(15年)、「国際市場で逢いましょう」(14年)など秀作、大ヒット作に出演し、その存在感を発揮しているジョンミン。「新しき世界」(13年)や「生き残るための3つの取引」(10年)も素晴らしかったですし、「ハピネス」(07年)、「ユア・マイ・サンシャイン」(05年)もステキでしたね。ヤクザや刑事からピュアな男、庶民まで、主役も脇も演じられる演技力は群を抜いています。

何気ない話なのですが、ジョンミンと美しきヒロインでここまで胸の熱くなる作品を送り出してくる韓国映画界には嫉妬してしまいます。でも、それが韓国映画界の底力なのだと思います。脇を固めるクォク・ドウォンら共演陣もいい味を出しています。気性が似ているからなのか、とても韓国映画が描く世界には共感するものが多いです。

 

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今を大切に生きることを教えてくれる作品です。

Netflixオリジナル映画「ウォー・マシーン」で将軍を演じたブラット・ピットが最高、ラストのキャスティングも秀逸!

アンジェリーナ・ジョリーと離婚して、心労からか激やせした姿が心配されたブラッド・ピットですが、彼の映画製作会社プランBと動画配信サービスのNetflixが共同製作したオリジナル映画「ウォー・マシーン 戦争は話術だ!」を観ました。

実在の将軍スタンリー・マクリスタルを取材したマイケル・ヘイスティングスのノンフィクションを原作に、ブラックユーモアや風刺を散りばめて脚色した戦争ドラマです。アメリカの一人の将軍の栄光と衰退を通して、軍事力だけでは解決できない「現代の戦争」の裏側を描き出していて、とても面白かったです。

元気な頃のピット自らアフガニスタンの駐留米軍司令官に任命された生粋の軍人グレン・マクマホン陸軍大将を演じているのですが、その少し曲がった顔つき、がに股な歩き方や両脇を少しあけながらぶらぶらさせた走り方、苦虫を潰したようなしゃべり方が軍人然としていて独特で、どこまで実在の将軍をモデルに役作りしているかはわかりませんが、悲惨な戦争の裏にある滑稽さがより一層際立って笑ってしまいます。

グレンは、泥沼化していくアフガニスタンでの戦争に終止符を打つために意気揚々と戦地に取り巻きとともに乗り込むのですが、ドイツのジャーナリストや仲間のはずの米政府や政治家たちの様々な思惑に振り回されていき、事態はより混迷を極めていくというもの。久しぶりに会う奥さんとの気まずい関係や夫婦喧嘩のシーンは泣けてきます。

ティルダ・スウィントンやベン・キングズレーといったくせ者役者が顔を出しているのも味付けが良く、グレンに代わって赴任してきた将軍のキャスティングには思わず吹き出してしまいました。監督・脚本は「アニマル・キングダム」のデビッド・ミショッドです。

クオリティは高く「映画」ではあるのですが、映画館で観るかと言われるとちょっと二の足を踏むライトな作りになっていて、家で観るのにちょうどいいのかもしれません。とはいえ、このような映画が動画配信サービス向けに制作されてしまうのはやはり凄いですね、羨ましいです。

それにブラピは「マネーボール」で、メジャーリーグ「オークランド・アスレチックス」のGM、ビリー・ビーンを演じ、弱小球団を独自の「マネー・ボール理論」によって改革し、常勝球団に育てあげたビーンの「苦悩と栄光」のドラマを描いているのも「ウォー・マシーン」と共通するテーマだと思います。

 

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Netflixのオリジナル映画につては、今年カンヌ国際映画祭のコンペに出品されたポン・ジュノ監督「オクジャ okja」で、「映画」であるか、そうでないのかといった論争を呼びましたが、遅かれ早かれ、配信用オリジナル映画は増え、劇場公開と同時配信という時代もそこまできていると思います。

「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督の半生を描いた「シチリア!シチリア!」には愛が詰まっている

ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「シチリア!シチリア!」(2009年)は、イタリアはシチリア出身の監督自身の半生を描き出した人生讃歌です。

07年に暴漢に襲われてしまった監督は生死の境を彷徨うのですが、回復したことを機に、改めて生きる喜びを実感したといいます。そんな監督がいま一度シチリアを舞台に人生の素晴らしさを描き切ったのが本作です。1930年代から80年代までの世界中の主な出来事を織り交ぜながら、ある家族の愛と絆と人々の人生模様を描いています。

監督はプレスシートの中で語っています。28歳(1956年生まれ)までシチリアのバーリアで過ごしたそうで、私も大好きな一本、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「山猫」(63年)に登場するドン・ファブリツィオが、「17歳になるまでにシチリアを出なければ、シチリア人の欠点が身に染み付いて取れなくなってしまう」と言っていたことをあげ、自分もそうであったと述懐しつつ、それでもシチリア人であることを誇りに持っているとし、自分の子供時代やシチリアのすべてを映画にして、その素晴らしさを世界中に伝えたかったと述べています。

ちなみに本作の原題でもあるバーリアとは、イタリアはシチリア州パレルモの町「バゲリーア」のことで、地元の方言でそう呼ばれているとのこと。まさにそこに生まれ育った監督でしか描けない自伝的な作品なのです。当時のシチリアの自然や町並み、そこに生きる人々の様子を生き生きと描くとともに、映画への愛が詰まった一代叙事詩になっています。

トルナトーレ監督の「ニュー・シネマ・パラダイス」(89年)は、私を映画で生きていくことを決定づけた1本です。映画っていいな、フィルムって味わい深いな、あの夢の世界に入ってみたいな、初恋っていいな、人を愛するっていいなと、いろんなことを「いいな」って思わせてくれた作品です。ラスト、昔の映画のキスシーンばかりがつなぎ合わされたシーンには涙が止まりませんでした。

 

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シチリアと言えば、一方でマフィアの発祥地として血なまぐさい話が未だにありますが、それはそれでその地の歴史を知る上で重要な要素であり、「ゴッドファーザー」好きな私としても死ぬまでになんとかシチリアに行ってみたいと願っています。

「ニュー・シネマ・パラダイス」以来組んでいるエンニオ・モリコーネの音楽も相変わらず素晴らしく、甘く切ない、ノスタルジックな音色はトルナトーレの映像を引き立ててくれます。旅や食が好きな方にもオススメな作品だと思います。ワインが飲みたくなってきました。

シチリア!シチリア!スペシャル・エディション [DVD]

2009年/イタリア映画/SR、SRD/151分
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
配給:角川映画

コーエン兄弟の美学が貫かれた新しき西部劇「トゥルー・グリット」、壮絶な追跡の果てに感動のドラマが待っている

アカデミー賞「ノーカントリー」(07年)、「ファーゴ」(96年)で米アカデミー賞を受賞したコーエン兄弟が、ジョン・ウェイン主演の名作西部劇「勇気ある追跡」(69年)をジェフ・ブリッジス主演でリメイクした「トゥルー・グリット」のプレスシートは非常に重厚な作りとなっています。西部劇らしく、西部の町にお尋ね者の似顔絵が貼り出されているような褪せた感じの厚手の紙質でなんと全44ページ(表紙裏含む)。配給会社の作品に賭ける思いが伝わってきます。

父親を殺された14歳の少女マッティが、犯人を追跡するため、隻眼の凄腕連邦保安官コグバーンを雇うのですが、コグバーンは元泥棒で大酒飲みの自堕落な男。彼を信用できないマッティはコグバーンに同行して犯人を追うことになるという追跡劇。コーエン兄弟の作品はいつもどこか冷めた目線で描かれていて、この作品でも善人と悪者の闘いという西部劇的な描き方はしません。

でも、登場人物を冷徹に見つめる視線がフィクションでありながらリアルなドラマを生み出しています。そして、冷めてはいるのですが、その根底には人間への愛があるからこそ、観ている側はいつの間にか心が熱くなるのだと思います。

「バートン・フィンク」(91年)でカンヌ国際映画祭3冠も受賞しているコーエン兄弟の作品のテーマに通じる「追跡」を布石として新たに挑んだ作品で、壮絶な追跡の果てに感動のドラマが待っています。製作総指揮にスティーブン・スピルバーグが名を連ねており、コーエン兄弟の原点に回帰した集大成として評価されています。

マティには、1500人のオーディションから選ばれた新星ヘイリー・スタインフェルドが演じ鮮烈なデビューを飾りました。コグバーンには名優ジェフ・ブリッジスが扮し、さらにマット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパーらの実力派が脇を固めています。撮影監督には「バーバー」(01年)のロジャー・ディーキンスなど優秀なスタッフが顔を揃えています。

勇気と復讐の果てに待っているものは何なのか? コーエン兄弟の美学が貫かれた作品です。

トゥルー・グリット スチールケース仕様 [Blu-ray]
2010年/110分/シネマスコープ/DTS/SRD/SDDS/SR(シアンダイ)
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン