ファン・ジョンミンの切なさに涙し、ハン・ヘジンの美しさに酔いしれる「傷だらけのふたり」は犠牲愛を描いたメロドラマ

週末、韓国映画の「傷だらけのふたり」(ハン・ドンウク監督)をNetflixで観ました。ファン・ジョンミンは大好きな役者で、本作でのジョンミンも素晴らしかったです。粗野でありながら心優しい、人情に厚い一面を持つ男を演じさせたら右に出る役者はいませんね。

同作は、借金取りの粗野な男が、借金を回収に行った先で、生きる世界の異なる女性と出会い一目惚れし、彼女のために人生を見つめ直していこうとする姿を描いたドラマです。

2014年の作品で、日本公開は15年4月です。セカンドバッグを持ったヤクザのような威圧的な格好をした男と、OLの制服を来た女性が町の通りを微妙な距離感で歩いている瞬間を捉えたメインビジュアルを観た時にこれは好みの作品だと直感的にピンときていたのですが、劇場での鑑賞のタイミングを逃していた次第です。

ヒロインはハン・ヘジンで綺麗な女優さんです。ジョンミン演じるテイルが借金を回収に病院へ駆けつけたところ、その男はすでに昏睡状態で、そこで看病をしていたへジン演じる娘のホジョンと出会います。最初の出会いは最悪なのですが、テイルがホジョンを一目見た時の表情が秀逸です。

借金を帳消しにする代わりに、自分と何度かデートするという契約を結ぶ卑怯な申し出で始まるのですが、不器用なテイルは何度もホジョンに拒絶されるながらも、あることをきっかけに次第に2人は心を通わせていきます。そして、幸せになれるかと思った矢先にテイルにあることが判明します。

この先の詳しい展開は控えますが、ホジョンのために生き直そうとしながらもすれ違い、彼女の幸せを願うテイルの犠牲愛に涙がこぼれます。

最近も「哭声 コクソン」(16年)、「アシュラ」(16年)、「ベテラン」(15年)、「国際市場で逢いましょう」(14年)など秀作、大ヒット作に出演し、その存在感を発揮しているジョンミン。「新しき世界」(13年)や「生き残るための3つの取引」(10年)も素晴らしかったですし、「ハピネス」(07年)、「ユア・マイ・サンシャイン」(05年)もステキでしたね。ヤクザや刑事からピュアな男、庶民まで、主役も脇も演じられる演技力は群を抜いています。

何気ない話なのですが、ジョンミンと美しきヒロインでここまで胸の熱くなる作品を送り出してくる韓国映画界には嫉妬してしまいます。でも、それが韓国映画界の底力なのだと思います。脇を固めるクォク・ドウォンら共演陣もいい味を出しています。気性が似ているからなのか、とても韓国映画が描く世界には共感するものが多いです。

 

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今を大切に生きることを教えてくれる作品です。

Netflixオリジナル映画「ウォー・マシーン」で将軍を演じたブラット・ピットが最高、ラストのキャスティングも秀逸!

アンジェリーナ・ジョリーと離婚して、心労からか激やせした姿が心配されたブラッド・ピットですが、彼の映画製作会社プランBと動画配信サービスのNetflixが共同製作したオリジナル映画「ウォー・マシーン 戦争は話術だ!」を観ました。

実在の将軍スタンリー・マクリスタルを取材したマイケル・ヘイスティングスのノンフィクションを原作に、ブラックユーモアや風刺を散りばめて脚色した戦争ドラマです。アメリカの一人の将軍の栄光と衰退を通して、軍事力だけでは解決できない「現代の戦争」の裏側を描き出していて、とても面白かったです。

元気な頃のピット自らアフガニスタンの駐留米軍司令官に任命された生粋の軍人グレン・マクマホン陸軍大将を演じているのですが、その少し曲がった顔つき、がに股な歩き方や両脇を少しあけながらぶらぶらさせた走り方、苦虫を潰したようなしゃべり方が軍人然としていて独特で、どこまで実在の将軍をモデルに役作りしているかはわかりませんが、悲惨な戦争の裏にある滑稽さがより一層際立って笑ってしまいます。

グレンは、泥沼化していくアフガニスタンでの戦争に終止符を打つために意気揚々と戦地に取り巻きとともに乗り込むのですが、ドイツのジャーナリストや仲間のはずの米政府や政治家たちの様々な思惑に振り回されていき、事態はより混迷を極めていくというもの。久しぶりに会う奥さんとの気まずい関係や夫婦喧嘩のシーンは泣けてきます。

ティルダ・スウィントンやベン・キングズレーといったくせ者役者が顔を出しているのも味付けが良く、グレンに代わって赴任してきた将軍のキャスティングには思わず吹き出してしまいました。監督・脚本は「アニマル・キングダム」のデビッド・ミショッドです。

クオリティは高く「映画」ではあるのですが、映画館で観るかと言われるとちょっと二の足を踏むライトな作りになっていて、家で観るのにちょうどいいのかもしれません。とはいえ、このような映画が動画配信サービス向けに制作されてしまうのはやはり凄いですね、羨ましいです。

それにブラピは「マネーボール」で、メジャーリーグ「オークランド・アスレチックス」のGM、ビリー・ビーンを演じ、弱小球団を独自の「マネー・ボール理論」によって改革し、常勝球団に育てあげたビーンの「苦悩と栄光」のドラマを描いているのも「ウォー・マシーン」と共通するテーマだと思います。

 

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Netflixのオリジナル映画につては、今年カンヌ国際映画祭のコンペに出品されたポン・ジュノ監督「オクジャ okja」で、「映画」であるか、そうでないのかといった論争を呼びましたが、遅かれ早かれ、配信用オリジナル映画は増え、劇場公開と同時配信という時代もそこまできていると思います。

「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督の半生を描いた「シチリア!シチリア!」には愛が詰まっている

ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「シチリア!シチリア!」(2009年)は、イタリアはシチリア出身の監督自身の半生を描き出した人生讃歌です。

07年に暴漢に襲われてしまった監督は生死の境を彷徨うのですが、回復したことを機に、改めて生きる喜びを実感したといいます。そんな監督がいま一度シチリアを舞台に人生の素晴らしさを描き切ったのが本作です。1930年代から80年代までの世界中の主な出来事を織り交ぜながら、ある家族の愛と絆と人々の人生模様を描いています。

監督はプレスシートの中で語っています。28歳(1956年生まれ)までシチリアのバーリアで過ごしたそうで、私も大好きな一本、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「山猫」(63年)に登場するドン・ファブリツィオが、「17歳になるまでにシチリアを出なければ、シチリア人の欠点が身に染み付いて取れなくなってしまう」と言っていたことをあげ、自分もそうであったと述懐しつつ、それでもシチリア人であることを誇りに持っているとし、自分の子供時代やシチリアのすべてを映画にして、その素晴らしさを世界中に伝えたかったと述べています。

ちなみに本作の原題でもあるバーリアとは、イタリアはシチリア州パレルモの町「バゲリーア」のことで、地元の方言でそう呼ばれているとのこと。まさにそこに生まれ育った監督でしか描けない自伝的な作品なのです。当時のシチリアの自然や町並み、そこに生きる人々の様子を生き生きと描くとともに、映画への愛が詰まった一代叙事詩になっています。

トルナトーレ監督の「ニュー・シネマ・パラダイス」(89年)は、私を映画で生きていくことを決定づけた1本です。映画っていいな、フィルムって味わい深いな、あの夢の世界に入ってみたいな、初恋っていいな、人を愛するっていいなと、いろんなことを「いいな」って思わせてくれた作品です。ラスト、昔の映画のキスシーンばかりがつなぎ合わされたシーンには涙が止まりませんでした。

 

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シチリアと言えば、一方でマフィアの発祥地として血なまぐさい話が未だにありますが、それはそれでその地の歴史を知る上で重要な要素であり、「ゴッドファーザー」好きな私としても死ぬまでになんとかシチリアに行ってみたいと願っています。

「ニュー・シネマ・パラダイス」以来組んでいるエンニオ・モリコーネの音楽も相変わらず素晴らしく、甘く切ない、ノスタルジックな音色はトルナトーレの映像を引き立ててくれます。旅や食が好きな方にもオススメな作品だと思います。ワインが飲みたくなってきました。

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2009年/イタリア映画/SR、SRD/151分
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館
配給:角川映画

コーエン兄弟の美学が貫かれた新しき西部劇「トゥルー・グリット」、壮絶な追跡の果てに感動のドラマが待っている

アカデミー賞「ノーカントリー」(07年)、「ファーゴ」(96年)で米アカデミー賞を受賞したコーエン兄弟が、ジョン・ウェイン主演の名作西部劇「勇気ある追跡」(69年)をジェフ・ブリッジス主演でリメイクした「トゥルー・グリット」のプレスシートは非常に重厚な作りとなっています。西部劇らしく、西部の町にお尋ね者の似顔絵が貼り出されているような褪せた感じの厚手の紙質でなんと全44ページ(表紙裏含む)。配給会社の作品に賭ける思いが伝わってきます。

父親を殺された14歳の少女マッティが、犯人を追跡するため、隻眼の凄腕連邦保安官コグバーンを雇うのですが、コグバーンは元泥棒で大酒飲みの自堕落な男。彼を信用できないマッティはコグバーンに同行して犯人を追うことになるという追跡劇。コーエン兄弟の作品はいつもどこか冷めた目線で描かれていて、この作品でも善人と悪者の闘いという西部劇的な描き方はしません。

でも、登場人物を冷徹に見つめる視線がフィクションでありながらリアルなドラマを生み出しています。そして、冷めてはいるのですが、その根底には人間への愛があるからこそ、観ている側はいつの間にか心が熱くなるのだと思います。

「バートン・フィンク」(91年)でカンヌ国際映画祭3冠も受賞しているコーエン兄弟の作品のテーマに通じる「追跡」を布石として新たに挑んだ作品で、壮絶な追跡の果てに感動のドラマが待っています。製作総指揮にスティーブン・スピルバーグが名を連ねており、コーエン兄弟の原点に回帰した集大成として評価されています。

マティには、1500人のオーディションから選ばれた新星ヘイリー・スタインフェルドが演じ鮮烈なデビューを飾りました。コグバーンには名優ジェフ・ブリッジスが扮し、さらにマット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパーらの実力派が脇を固めています。撮影監督には「バーバー」(01年)のロジャー・ディーキンスなど優秀なスタッフが顔を揃えています。

勇気と復讐の果てに待っているものは何なのか? コーエン兄弟の美学が貫かれた作品です。

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2010年/110分/シネマスコープ/DTS/SRD/SDDS/SR(シアンダイ)
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

映画博士マーティン・スコセッシ監督の「シャッター アイランド」は「カッコーの巣の上で」と対比して観ると面白さ倍増

私の映画人生に最も影響を与えた監督のひとりがマーティン・スコセッシ監督で、このブログでは今後何度も触れていくこととなると思います。このブログのタイトルにもなっている「タクシードライバー」(76年)がスコセッシ作品との最初の出会いだったでしょうか。評判は知っていたのですが、ロバート・デ・ニーロが好きで観てみたのだと思います。ニューヨークの通りを覆う煙、そこから出てくるイエローキャブ(タクシー)。リアルでありながら、なんとも幻想的な映画的表現に度肝を抜かれました。

ベトナム帰りのタクシードライバーが、社会に対する鬱憤を募らせ、自分こそがこの汚れた社会を綺麗にできるのだと思い込み、英雄的な行動を起こして殺人を犯すのですが、皮肉なことに汚れた社会では、家出娘を救うこととなった彼が英雄となってしまいます。多人種が生活するニューヨークを舞台に、ベトナム戦争で狂気の世界を見てきた男の孤独が、マイケル・チャップマンの流麗なキャメラワークと、バーナード・ハーマンのジャジーな音楽によって引き立てられます。

スコセッシ作品は宗教的なテーマが根底にあるのですが、私が特に惹かれるのは映画的な技法を駆使しているところです。スコセッシ監督は過去の世界中のあらゆる傑作映画を見た上で映画を撮っており、画面の端々に映画的なオマージュが感じられるのです。もちろんそこにオリジナリティを発揮して自分の作品を生み出しているのが凄いですよね。

いま手にしている映画プレスシートは、2010年製作の「シャッター アイランド」。「ミスティック・リバー」(03年)のデニス・ルヘインの同名小説をレオナルド・ディカプリオ主演で映画化したミステリーです。普通のプレスシートではなく、1950年代を舞台にした作品にあわせて、当時の刑事が事件のレポートをまとめたファイル形式になっています。しかも場面写真が事件の証拠写真のように袋に入れられ、事件の証拠の一つとなるメモが同封されている凝ったプレスシートとなってい、配給宣伝会社の熱い思いが伝わってきます。

精神を患った犯罪者だけを収容する絶海の孤島“シャッターアイランド”で起こった女性患者の失踪事件を調査しに、ディカプリオ演じる連邦捜査官テディがやってくるのですが、不可解な事件が続き、次第に何が真実で、何が真実でないのかわからなくなっていくというストーリー。凄惨な戦争体験と愛妻の死という二重のトラウマを負ったテディの2日間の壮絶な体験をミステリーとして、人間ドラマとしてスコセッシ監督は見事に描いています。次第に追いつめられていくディカプリオの演技も素晴らしいです。

ジャック・ニコルソン主演、ミロス・フォアマン監督の傑作「カッコーの巣の上で」(75年)を想起させる作品でもあり、映画的な謎解きやトリックの面白さを堪能できます。自分の目に見えているものが果たして真実なのか、信じていたものが信じられなくなっていく自分の頭はどうかしてしまったのか、夢か現実か、その境目が曖昧になっていく展開は必見です。スコセッシ作品を観ていくと主人公にはどこか共通したテーマが負わされていることに気づいていくと思いますので、オススメします。

シャッター アイランド&ウルフ・オブ・ウォールストリート ベストバリューBlu−rayセット [期間限定スペシャルプライス] [Blu-ray]
2010年/アメリカ映画/138分
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

幻想的な宇宙や天地創造を想起させる圧巻の映像、テレンス・マリック監督「ツリー・オブ・ライフ」の映画的記憶に浸って欲しい

伝説の映画監督テレンス・マリック。1973年のデビュー作「地獄の逃避行」でアメリカ映画界屈指の作家との評価を受け、「天国の日々」(1978年)でその才能を決定的なものとし、特に陽が暮れる前のマジックアワーを活かした映像美は映画的なスタンダード(伝説)となりました。もちろんリアルタイムでは劇場で観ることはできなかった世代なので、約20年ぶりに手掛けた「シン・レッド・ライン」(98年)の公開時には興奮したのを覚えています。

寡作のマリック監督は「ニュー・ワールド」(05年)を経て、「ツリー・オブ・ライフ」(11年)完成させました。一貫して人間と自然をモチーフに描き、同作でも親と子、特に父と息子の確執を題材とし、その葛藤を瑞々しい映像の中に浮き彫りにしながら、人生や生命にまで思いを巡らせた作品になっています。

しかもキャストには、ショーン・ペン、ブラッド・ピット、ジェシカ・チャステインという最高の俳優を迎え、ブラピはこの作品を実現させるために製作にまで名を連ねています。ブラピが演じた1950年代テキサスの厳格な頑固親父は観ていて痛くはありますが、どこか人間的な弱さを持った憎めない人物としても描かれていると思います。そんな頑固親父との確執から心に深い喪失感を抱いて中年になった息子ジャックをペンが味わい深く演じています。

作品は、まるでジャックの記憶に分け入るように展開し、マリック監督の映像世界、流麗な語り口に深く包み込まれるような感覚に陥ることでしょう。頑固親父、夫に逆らえない優しい母、そして兄弟たちとの思い出、家、町…。時代や境遇は違えど、誰しもが持っている懐かしき記憶がそこには描かれています。

マリック監督自身の内面が映像に織り込まれ、さらに幻想的な宇宙や天地創造を想起させる大自然の映像は圧巻。普遍的な家族の絆を描きながら、人間の存在、宗教的な贖いと受容の問題にまで作品世界は広がっていきます。そんな映像とリンクする音楽も素晴らしくマリック版「2001年宇宙の旅」を評されています。もはや凡人にはついていけない境地まで達している感はありますが、シンプルにその映像と言葉、音楽を浴びて、生命のDNAの螺旋ループに巻き込まれるように映画的な記憶の中に浸ればいいのだと思います。

プレスシートは、英語で書かれたタイトルがのった半透明の表表紙をめくると、父親の手に包まれた赤ん坊の小さな足の裏が表紙写真になっています。続いてブラピ、ペンの写真とともにイントロダクション、マリック監督の解説があり、中ページは半見開きとなっており、作中のカットがカラフルに配列され、めくると映画評論家やオピニオンらによるコメントが掲載されています。そしてキャスト紹介、場面写真とともに貴重なプロダクション・ノートが掲載されています。

映画の映像的な快楽を得たい方、もしくは生きることに意味を見出せなっている方、自分の存在を見つめ直したい方などにオススメの作品です。圧倒的なマリックワールドにのみ込まれることでしょう。

ツリー・オブ・ライフ ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]
2011年/アメリカ映画/カラー/ヴィスタサイズ/SRD/2時間18分
提供:フォックス・サーチライト・ピクチャーズandリヴァー・ロード・エンターテイメント
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

「エレクション」のジョニー・トー監督が仏映画界と化学反応を起こした「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」の美学に酔いしれる

ジョニー・トー監督の「エレクション」(05年)を初めて観た時は頭を打ち抜かれたような衝撃を受けました。ジャッキー・チェンやジョン・ウー、ツイ・ハーク、そしてウォン・カーウァイらの監督作品を観て育った私にとってジョニー・トー監督との出会いはなぜか遅かったのです。

香港最大の暴力団の会長選挙を背景に、トップを狙う男たちの仁義なき戦いを描いた犯罪群像劇の「エレクション」。それまでのジョン・ウー監督のフィルム・ノワールとはまたひと味違った香港マフィアもので、リアルな中にトー監督の美学を感じさせるものでした。冷静沈着なロクを演じたサイモン・ヤムの殺気だった存在感と、組の稼ぎ頭で選挙に敗れたディーを演じたレオン・カーフェイの格好良さ。「愛人 ラマン」(92年)の頃の美青年からは想像もつかないヤクザを恐ろしいほどの愛嬌で演じている様に痺れました。

それからトー監督作品を観ました。続編の「エレクション 報復」(06年)、「ザ・ミッション 非情の掟」(00年)、「PTU」(03年)、「ブレイキング・ニュース」(04年)、「エグザイル 絆」(06年)など。「ワイルドバンチ」(69年)などの作品でバイオレンスの巨匠として知られるサム・ペキンパーにも匹敵する美学を持ったトー作品は香港映画の概念を変えたと思います。

世界から注目を集めるそんなトー監督がフィルム・ノワールの本場フランス映画界と組んで製作したのが「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」です。ハリウッド映画を超える派手なアクションと銃撃戦、そして哀愁に満ちた男たちの美しき生き様が描かれ、香港ノワールとフレンチ・ノワールが見事に化学反応を起こしています。

惨殺された娘家族の復讐を誓う主人公コステロにフランスの国民的スター、ジョニー・アリディを迎え、彼に雇われる3人組のヒットマンにアンソニー・ウォン、ラム・シュ、ラム・カートンとトー組常連俳優が脇を固めています。もはや芸術の域に達している銃撃戦の激しさと美しさは必見。映画的美学に酔いしれたい方にオススメの作品です。

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を [DVD]
2009年/香港・フランス/108分/シネスコ/ドルビーSRD/R-15+
製作:ARP、メディア・アジア 制作:ミルキーウェイ・イメージ
提供:ファントム・フィルム、アスミック・エース エンタテインメント
配給:ファントム・フィルム

ナ・ホンジン監督「哭声 コクソン」とパク・チャヌク監督「お嬢さん」の恐怖と変態ワールドを堪能すべし

今日は早稲田松竹で「哭声 コクソン」と「お嬢さん」の2本立てを観てきました。改めて韓国映画の映画的クオリティの高さとオリジナリティの底力を見せつけられました。ナ・ホンジン監督とパク・チャヌク監督というこの才能が同時代に活躍している韓国映画が羨ましく思いました。

「チェイサー」(08年)と「哀しき獣」(10年)でその才能を一躍知らしめたホンジン監督。「チェイサー」は犯罪スリラーでありながら、その躍動感とテンポの良い展開でぐいぐいを観客を引き込み、徐々に殺人鬼の恐ろしさと犯人を追う者の焦燥感、そして被害者の哀しみがラストに向かって緊張感たっぷりに描かれます。

「哀しき獣」は「チェイサー」をさらに超えるクライムサスペンスで、罠にはめられて追われる身となった男が、闇に潜む真実を暴き出し復讐していく姿を疾走感とリアリティ、圧倒的な迫力のバイオレンスでもって描き出していきます。「チェイサー」を観た時はもの凄い才能が現れたなと驚嘆しましたが、「哀しき獣」を期待をはるかに上回る傑作でした。

そして「哭声 コクソン」は、これまでと同系のサスペンススリラーでありながら、得体の知れない「悪」、恐怖を描き、前2作を超える骨太な作品となっていました。中でも日本からホンジン組に参戦した國村隼の存在感は素晴らしく、韓国の第37回青龍映画賞で外国人俳優として初受賞となる男優助演賞と人気スター賞をダブル受賞しました。観終わった後に、腹の底にこれまで味わったことのない恐ろしさが残る作品でした。

 

哭声/コクソン [Blu-ray]

 

「JSA」(00年)、「オールド・ボーイ」(03年)、「親切なクムジャさん」(05年)のチャヌク監督最新作「お嬢さん」は、英国の人気ミステリー作家サラ・ウォーターズの小説「荊の城」を原案に、舞台を日本統治下の韓国に置きかえて描いたサスペンスドラマです。残虐でエロチックな要素がふんだんに盛り込まれ、まるで秘め事を覗き見をしているような錯覚に陥る作品でした。アート作品の高みに到達しています。

 

お嬢さん <スペシャル・エクステンデッド版&劇場公開版>2枚組 [Blu-ray]

 

誤解を恐れずに言えば、ホンジン監督もチャヌク監督も変態監督です。しかし、独自のオリジナリティとイマジネーションが素晴らしく、2作品とも上映時間が約2時間半あるのですが、時間は感じません。韓国映画の現在地を知りたい方、映画的な刺激に飢えている方などにオススメの2作品です。

ソフィア・コッポラ監督「ロスト・イン・トランスレーション」は心の不安や孤独感を和らげてくれるステキな愛の物語

ソフィア・コッポラ監督の「ロスト・イン・トランスレーション」(03年)は大好きな作品の一本です。父親であるフランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザーPARTⅢ」(90年)でマイケル・コルレオーネの娘メアリーを演じたソフィアがまさかこんなステキな映画を監督するようになるとは、やはり血は争えないのですね。

日本の東京という街に仕事でやってきたハリウッド俳優ボブと、カメラマンの夫の仕事にくっついてやってきた若い妻シャーロットが宿泊先のホテルで出会う。違う文化、違う言葉の中で互いに言い知れぬ不安と孤独感に苛まれていた2人が、ただ単に寂しさを紛らわすためではなく、年齢も性別も超えて打ち解けていく心の機微が繊細に描かれる愛の物語です。

ボブにビル・マーレイ、シャーロットにスカーレット・ヨハンソンという絶妙なキャスティングで、中年男と若妻が徐々に心を通わせていく様子がなんとも自然に違和感なく、時にコミカルに、時にエロチックに映し出されていきます。アメリカから日本という違う国に来たから疎外感から不安や孤独感に苛まれますが、この2人は元々同じような思いを心の中に持っていたのだと思います。そんな2人が偶然にも東京のホテルのエレベーターの中ですれ違い、バーで親しくなり、街に出て心を通わせていきます。

自分のパートナーは本当に運命の人なのか。そんな疑念も2人の中にはあったのかもしれません。多くを語らなくても不思議に分かり合える人。数日の間交流するが、一線を越えない関係。別れの時が近づくが、お互いに踏み越えられないまま。ソフィアのとてもパーソナルな感情を描いたようにも見える作品ですが、彼女の類い稀なる感性が観る者の心を掴んで離さない作品です。ラストシーンは、何とも言えない幸福感に包まれます。

音楽も素晴らしく、第1作「ヴァージン・スーサイズ」に続き、ブライアン・レイチェルが音楽プロデューサーを担当。ボブとシャーロットの心を表現するような音楽と、東京の風景が見事にマッチし、日本からははっぴいえんどの「風をあつめて」が選曲されているのも憎い。

第76回アカデミー賞、第61回ゴールデングローブ賞ほか各映画賞で高い評価を得て、ソフィア監督の評価をさらに高めました。父親のコッポラが製作総指揮を担当しているのもいいですね。オール東京ロケを決行し、スタッフの90%が日本人という体制で製作されたそうです。

なんだか他人との関係に上手くいっていないとか、自分の殻を破れずにいるとか、心に孤独を感じている方にオススメしたい作品で、観ると他人と触れ合いたくなると思います。

 

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

2003年/アメリカ/102分/ビスタサイズ/SRD
提供:東北新社、アーティストフィルム、フジテレビジョン
配給:東北新社/宣伝:ファントム・フィルム

黒沢清監督の世界の見方が恐ろしい、「ドッペルゲンガー」は新しい解釈で新境地を開拓

日本人監督の一人目は黒沢清監督です。いま日本映画界で黒沢監督ほど独自の世界の見方をする監督は他にいないと思います。日常のすぐそばに恐怖があることを示してくれています。「CURE キュア」(97年)の登場はそれ以降の日本映画のひとつの方向性を変えたといっても過言ではないでしょう。

今回久しぶりに手にしたプレスシートは「ドッペルゲンガー」(02年)です。「CURE キュア」以降、「カリスマ」(00年)、「降霊」(00年)、「回路」(01年)と立て続けにコンビを組んだ役所広司さん主演作。ドッペルゲンガーという主題をチョイスしてくるあたりが実に映画的だと思いました。

ドッペルゲンガーとは、ご存知の通り、自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、伝承では、ドッペルゲンガーを見たものは数日のうちに必ず死ぬと言われている、自己像幻視のことです。

自らの分身(ドッペルゲンガー)に遭遇した男を役所さんが演じ、当然その相手役も役所さんが演じるという試みに挑戦した黒沢監督の新境地とも言える作品。自分の分身と遭遇した男は、次第に現実の自分と理想の自分と葛藤しだし、ひとりの人間の中で起こるもの、本来の自分と分身であるはずのもうひとりの自分が闘いを繰り広げる様が映像で表現され、コミカルでありながら恐ろしくなってくるのです。

その主人公の研究者の男を役所さんが見事に演じ分け、分身であったはずのもうひとりの自分に存在を脅かされていく様子をリアルに演じられる役所さんはやはり凄い役者です。どの作品でもどんな役でもその人物に染まり、最後には自分のものにしてしまっているのです。黒沢監督の描く恐怖と役所さんが持つ恐ろしさが融合するととてつもない化学反応が起きて、今まで見たことのない怖さを目の当たりにします。

現実世界とあの世(非現実世界)とも言える世界の境界線が次第に曖昧になり、遂にはどちらが現実なのか分からなくなっていきます。映画を観ているこちらも映画なのか、観ているこちら側が非現実なのか感覚が麻痺してくるようです。

黒沢清論について今回はこの辺にしておきますが、また違う作品のプレスシートをめくり返しながら深く論じていきたいと思っています。黒沢監督はもしかしたら別世界から来た監督(才能)なのかもしれません。全10ページ。

 

ドッペルゲンガー [DVD]

2002年/35ミリ/カラー/ドルビーSR/ヴィスタ/107分
製作:東芝、ワーナー・ブラザース映画、日本テレビ、アミューズピクチャーズ、日本テレビ音楽、ツインズジャパン
配給:アミューズピクチャーズ